ホーム   免震のすすめ / 高山 峯夫    第5回:熊本地震における免震構造の効果
  • 第1回:免震構造の実用化
  • 第2回:免震構造の地震時応答の予測
  • 第3回:やさしい免震層の設計
  • 第4回:熊本地震における建築物の被害
  • 第5回:熊本地震での免震構造の効果
  • 第6回:免震構造のすすめ
高山 峯夫

(たかやま みねお
/ Mineo Takayama)
福岡大学教授

 

< 略 歴 >

1960年福岡県生まれ。1982年福岡大学工学部卒業。1986年東京大学大学院修了後、福岡大学にて免震構造の実用化に取り組む。免震構造は大地震でも建物とその内部に被害は生じさせない。免震構造の実現に欠かせない積層ゴムの実大破壊実験、有限要素解析に取り組み、積層ゴムの優れた荷重支持性能のメカニズムを解明する。その成果により1998年日本建築学会奨励賞受賞。免震構造だけでなく地域やまちの災害リスク低減をする方策の研究にも力をいれている。著書に「4秒免震への道」(理工図書)、「耐震・制震・免震が一番わかる」(技術評論社)がある。専門は建築構造、免震構造。

 

< 著 書 >

4秒免震への道

耐震・制震・免震が一番わかる

第5回:熊本地震における免震構造の効果

調査の概要

熊本県内には工事中の4棟を含め、24棟(20箇所)の免震建物があることを把握している。これらの免震建物のうち17箇所について調査を行った。共同住宅が最も多く、続いて医療施設、事務所や倉庫である。戸建て免震住宅については残念ながら把握ができていない。調査を行った免震建物の概要を【表1】に示す。いずれの建物でも積層ゴム支承が用いられている。調査は、建物の外周および免震層の目視観察を基本とした。建物管理者や利用者への聞き取り調査を行うと共に、建物によっては室内調査も実施した。

建物の地震時の動きについては、8棟の免震建物のけがき記録で確認することができた。けがき記録とは、けがき板と呼ばれる金属板にひっかき傷をつけることで免震建物と地盤の相対的な変形量の軌跡を記録したものである。

【表1】調査した免震建物概要

  用途 建設年 構造 階数 免震部材 免震クリアランス(mm) 所在地
A 共同住宅 1998 RC 14 HDR 430 熊本市
RC 11 HDR 430
B 病棟 2002 SRC 13+B1 NRB, LRB, SD, CLB 500
2010 SRC 13+B1 NRB, LRB, SD 500
診療棟 2006 SRC 7+B1 LRB 550
C 共同住宅 2002 RC 14 NRB, HDR 600
2002 RC 14 NRB, HDR 600
D 宿泊施設 2002 RC 12 HDR, OD 450
E 共同住宅 2008 RC 15 NRB, USD, LD 600
F 共同住宅 2008 RC 13 NRB, USD, LD (350)*1
G 事務所 2015 S+SRC 7+B1 NRB, USD, SnRB 650
H 医療施設 2011 RC 5 HDR 600 山鹿市
I 事務所 2014 S+CFT 5+B1 NRB, LRB, ESD, USD 600
J 共同住宅 2008 RC 15 HDR, ESD, USD 600 八代市
K 共同住宅 2008 RC 14 NRB, USD, LD 550
L 倉庫 2013 S+SRC 2 NRB, LRB, ESD 580 その他
M 医療施設 2014 RC 4 NRB, LRB 500

※構造 RC:鉄筋コンクリート造、S:鉄骨造、SRC:鉄骨鉄筋コンクリート造、CFT:コンクリート充填鋼管構造

※免震部材 NRB:天然ゴム系積層ゴム支承、LRB:鉛プラグ入り積層ゴム支承、HDR:高減衰積層ゴム支承、SnRB:錫プラグ入り積層ゴム支承、ESD:弾性すべり支承、CLB:直動転がり支承、OD:オイルダンパー、SD:鋼棒ダンパー、USD:U型鋼材ダンパー、LD:鉛ダンパー

*1:大地震時の想定変形量

調査結果

現地調査を行った中から医療施設と共同住宅について地震時の挙動を紹介する。

a)医療施設

B建物群は熊本市内の医療施設である。近くの地震観測点JMA熊本では本震で震度6強を観測している。B建物群は、建替え計画が進行中で、敷地内には、免震、新耐震、旧耐震の建物が混在している。旧耐震の一部の建物は大破し、新耐震の建物は仕上げ材や内容物に損傷が生じ、復旧のため翌月曜日まで休診したものの、来院者に診療は行っていた。

SRC構造13階建て(地下1階)の免震病棟は2期に分けて建設され、増築のときに一体化されている。天然ゴム系積層ゴム、鉛プラグ入り積層ゴムと鋼棒ダンパーが設置されており、増築の際に直動転がり支承が追加された。SRC造7階建て(地下1階)の免震診療棟は鉛プラグ入り積層ゴムが設置されている。免震病棟と免震診療棟は連絡通路の非免震建物に隣接しており、それぞれエキスパンションジョイントを介して接続されている。

建物管理者への聞き取り調査では、免震建物はほぼ無被害で家具や診療器具の転倒もなく通常の業務を続けたことを確認した。免震病棟では患者が避難することはなかった。免震診療棟では、一時本震による断水や停電の影響を受けたが、外部からの支援や自家発電などにより病院としての機能を維持し、すぐに急患を受け入れる体制がとられた。

免震病棟のけがき記録は両振幅で60cm(片振幅38cm)、免震診療棟はけがき記録は両振幅72cm(片振幅41cm)であった。いずれも残留変形はほとんどなかった。建物外周部では、建物入り口などのエキスパンションジョイントや手すりの変状を確認した(【写真1】)。

【写真1】エキスパンションジョイントと手すりの変状

また、鋼棒ダンパーでは大変形を経験したことによる表面塗装の剥離と取付けボルトの緩みを確認した(【写真2】)。しかし、いずれの免震部材においても異常は見られず、本震後の点検でも使用上の問題は確認されなかった。

【写真2】鋼棒ダンパーの塗装の剥がれ

H建物は山鹿市内の医療施設である。近くの地震観測点K-net山鹿では本震で震度5弱を観測している。RC造5階建ての病棟および診療棟である新館のみ免震建物で、待合ロビーおよび玄関ホールは非免震建物である。免震建物と非免震建物の間はエキスパンションジョイントを介して接続されている。免震層には高減衰積層ゴムが設置されている。

建物管理者への聞き取り調査では、免震建物は家具や診療器具の転倒もなく通常の業務を続けたことを確認した。また、甚大な被害を受けた病院から患者を受け入れている。余震のたびにゆっくりとした揺れは感じるがガタガタという音はしない、とのことであった。

免震層のけがき記録は両振幅19cm(片振幅約10cm)を示していた。残留変形や免震部材の異常は確認されていない。建物外周部では、免震建物と非免震建物の接合部であるエキスパンションジョイントの変状を確認した。また、建物内部で免震建物と非免震建物の境目にある天井パネルのずれが発生している(【写真3】)。

【写真3】天井パネルのずれ

M建物(【写真4】)は阿蘇市内にある医療施設である。近くの地震観測点K-NET一の宮では本震で震度6弱を観測している。RC造2階建ての診療棟とRC造4階建ての病棟が1階の床板で支えられた免震構造となっている。免震層には天然ゴム系積層ゴムと鉛プラグ入り積層ゴムが設置されている。これらの免震建物は、エキスパンションジョイントを介して1階建ての非免震の外来棟に接続されている。本震直後から建物機能を維持し、診療を継続している。病院長は、免震建物のおかげで、地震時に機能停止となった周辺の非免震の病院(13施設)から患者を受け入れ、約7万人の医療を支えることができた、と語ってくれた。

【写真4】M建物の外観

免震層のけがき記録は、最大で両振幅90cm(片振幅46cm)であった(【写真5】【図1】)。前震直後の軌跡は直径5mm程度の五円玉の穴よりも小さな軌跡であったとのことで、本震の激しさを計り知ることができる。大変形を経験しているが免震層の残留変形はほとんど残っていない。

【図2】にはM建物から東に4kmほど離れた地点にあるK-NET一の宮での本震記録を使った応答スペクトルを示す。速度と変位応答をみると周期3秒で卓越していることが明瞭である。この地震動がそのままM建物へ入力したとすれば、応答変形は優に1mを超えてしまう。しかし、実際の最大応答変形は46cmと大きな差がある。これは深い地盤構造が影響したものであると推定されるが、今後詳細な検討が必要だろう。

【写真5】M建物のけがき板

【図1】M建物の免震層の動き(【写真5】のけがき記録をトレースしたもので、上が北)

【図2】K-NET一の宮での観測記録の応答スペクトル(EW方向)

※クリックで大きな画像が開きます

建物外周部のエキスパンションジョイントの変状を確認している(【写真6】)。また、病棟内に設置されていた細長いロッカーの転倒、給湯室の液晶テレビの転倒と小型冷蔵庫の10cm程度の移動が報告されている。

M建物から約1.4km離れた非免震建物のホテルは、震災後、安全確認がとれるまで休業し、現在は一部を除いて営業を行っている。本震の際にホテルの3階にいた従業員の話では、とにかくひどく激しく揺れたために和室の障子が外れ、とても恐ろしかったと語ってくれた。

【写真6】エキスパンションジョイントの変状

b)共同住宅

E建物は熊本市にあるRC造15階建ての共同住宅である。免震層には天然ゴム系積層ゴム、U型鋼材ダンパーと鉛ダンパーが設置されている。建物周囲の犬走り部分の接触痕から最大で片振幅10cm程度動いたと推定している。居住者へのアンケートでは、家具の転倒がなかったこと、立てていた細長い化粧品も倒れていなかったこと、ライフラインが止まらなかったため日常生活が継続できたこと、近所に住む親族が避難してきたことなどが示されており、いずれも免震構造の性能に満足しているという回答であった。

J建物とK建物は八代市にある共同住宅である。近くの地震観測点K-NET八代では本震で震度6弱を観測している。J建物はRC造15階建ての共同住宅で、高減衰積層ゴム、弾性すべり支承とU型鋼材ダンパーが設置されている。弾性すべり支承の移動痕から免震層は最大で片振幅13cm変形したと推定している。最上階の居住者の話では、本震ではゆっくりと大きく長い時間揺れたような感じがしたが、家具の転倒や上部構造の損傷はなく問題なく住み続けることができた、とのことであった。近所にあるSRC造10階建ての宿泊施設(非免震建物)では本震後、安全確認が終了する明け方まで宿泊客が屋外で待機していた。

K建物はRC造14階建ての共同住宅で、天然ゴム系積層ゴム、U型鋼材ダンパーと鉛ダンパーが設置されている。免震層の配管継ぎ手が伸び縮みした痕から、免震層は片振幅7cm変形したと推定している。いずれの免震部材においても異常は確認されていない。家具の転倒や上部構造の損傷も報告されていない。居住者へのアンケート回答では、免震建物であると知っている居住者が88%、今回の地震では一般の建物と比較して耐震性に優れていると思うと答えた居住者が94%であった。また、本震のときのゆっくりとした揺れに多少の恐怖を感じたが、以後問題なく住み続けているという回答があった。

免震の効果

熊本地震後の免震建物現地調査のまとめを以下に示す。

1)
いずれの建物においても、地震直後から建物機能を失わず継続使用が可能であった。
2)
ダンパーの形状変化を確認した。これらは繰り返し変形に伴って生じるものであり、予想範囲内である。ダンパーや積層ゴム支承などの免震部材の点検は地震発生後に適切に実施されており、必要であれば交換することが可能である。
3)
今回調査を行った免震建物には地震計が設置されていなかった。また、ほとんどの共同住宅においてけがき板の設置はなかった。地震の後の免震部材の健全性を確認するためには地震計による観測が有効である。地震計の設置が難しい場合には、少なくともけがき板を設置すべきであろう。
4)
一部の建物で、外付けの避難階段やダンパーの取付け基部の損傷がみられた。これらは免震部材の特性を十分把握しないまま構造設計されたか、設計上の配慮不足によるものだと考えられる。免震建物の設計にあたっては、免震部材の特性や免震構造の応答特性を十分考慮すべきである。

参考文献

1)
国土技術政策総合研究所資料「平成28年(2016年)熊本地震建築物被害調査報告(速報)」国総研資料 第929号、2016年9月

>> 「第6回:免震構造のすすめ」(5月掲載予定)