ホーム   免震のすすめ / 高山 峯夫    第4回:熊本地震における建築物の被害
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高山 峯夫

(たかやま みねお
/ Mineo Takayama)
福岡大学教授

 

< 略 歴 >

1960年福岡県生まれ。1982年福岡大学工学部卒業。1986年東京大学大学院修了後、福岡大学にて免震構造の実用化に取り組む。免震構造は大地震でも建物とその内部に被害は生じさせない。免震構造の実現に欠かせない積層ゴムの実大破壊実験、有限要素解析に取り組み、積層ゴムの優れた荷重支持性能のメカニズムを解明する。その成果により1998年日本建築学会奨励賞受賞。免震構造だけでなく地域やまちの災害リスク低減をする方策の研究にも力をいれている。著書に「4秒免震への道」(理工図書)、「耐震・制震・免震が一番わかる」(技術評論社)がある。専門は建築構造、免震構造。

 

< 著 書 >

4秒免震への道

耐震・制震・免震が一番わかる

第4回:熊本地震における建築物の被害

はじめに

2016年4月14日(前震)と4月16日(本震)に発生した一連の熊本地震による被害は熊本県の発表によれば(2016年9月14日現在)、人的被害(死者数)は関連死を含めると111名、住家被害は全壊8,176棟、半壊29,463棟、一部破損130,873棟となっている。避難者はピーク時(4月17日)には183,882名にのぼった。

この地震を受けて日本建築学会九州支部では災害調査委員会(委員長:高山峯夫)を設置した。災害調査委員会は、日本建築学会九州支部の構造委員会(委員長:菊池健児)と災害委員会(委員長:高山峯夫)の構成員を中心に組織された。災害調査委員会では主に構造種別ごとに調査班を組織し、日本建築学会本部委員会との連携もはかりながら、建物被害の調査にあたることにした。こうした活動の他に、木造住宅の被害が著しかった益城町においては、被害が集中した地域を中心に悉皆調査を実施した。ここでは、熊本地震の建物被害調査の全体の概要およびそこから得られる教訓について述べたい。

木造建物の被害

熊本地震の震源断層の近くに位置する益城町、西原村、南阿蘇村では甚大な被害が発生した。【図1】は益城町で観測された本震(EW成分)の記録を使った加速度応答スペクトル(減衰5%)である。図中の黒実線は、工学的基盤で規定されている建築基準法のスペクトル(告示スペクトル)を示し、黒点線はこれを2倍して第二種地盤(地域係数Z=1.0)相当での地表におけるスペクトルとしたものである。灰色の点線はKiK-net益城での記録、灰色の実線は益城町役場での震度計による記録である。M-1、M-2、S-3の記録は大阪大学の秦氏による臨時観測点での記録である1)2)。M-1観測点は益城町役場近く、S-3観測点は県道28号線の南側の建物の倒壊率が高い地区での観測記録である。このスペクトルからはKiK-net益城からM-1、さらにS-3地点と南側に行くほど大きな揺れが観測されていることがわかる。また益城町では建築基準法の地震動を超える大きな入力地震動が生じたことがわかる。こうした地震観測記録と建物被害の関連性を調査するために益城町において悉皆調査を実施した。

【図1】益城町での観測記録の加速度応答スペクトル

(4月16日の本震の記録、EW成分)

益城町の悉皆調査では、町役場を中心に南北軸を設定し、南側は秋津川まで、東西方向は県道28号線沿いに調査範囲を設定した。悉皆調査は、5月3日から8日の6日間実施し、構造種別に関係なく、すべての建物(約2600棟)の被害を調査した。調査にあたっては、災害調査委員会の構成員のほか、JSCA、建築士会、建築事務所協会、JIAなどからも協力を得た。調査にあたった人員は延べ200名(69チーム)となった。

悉皆調査データを分析するにあたり建物の建設年代の特定は被害分析の上で重要である。そこで、調査データの信頼性を向上させるために、日本建築学会九州支部災害調査委員会と国交省・国土技術政策総合研究所・建築研究所の間で調査データの共有をはかることにした。その成果の一つとして国土交通省の「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」(以下、国交省委員会)において木造住宅に関して建設年代と被害率の関係などが示された3)(【図2】参照)。これによれば、1981年以前の住宅で大破以上の被害を受けた建物は約46%、1981年から2000年で大破以上の被害率は約18%、そして2000年以降で大破以上は約7%となっている。2000年以降の木造住宅の約61%が無被害となっている。建設年代が新しいほど被害率は小さくなっていることがわかる。また、耐震等級3の住宅16棟のうち14棟が無被害であったとされている。

現行の耐震設計の考え方は、今回のような熊本地震に見舞われた場合、人命保護の観点から建物の倒壊を防ぐことを最低性能としており、ある意味建物が損壊することは許容されている。住宅の購入者などは耐震構造だから「安全」と説明を受けているかもしれないが、「安全」という意味は少なくとも建物の倒壊を防ぐという意味であり、一般の方々が「安全」という言葉にもつイメージとは異なっている。こうした点を市民や社会に説明していくことが必要であり、住宅の購入者や居住者が建物の耐震性能を正しく理解して、選択できるようにすることが求められる。

【図2】悉皆調査による木造の建築時期別の被害状況(文献3のデータに基づいて作成)

木造住宅が全壊・倒壊した要因については、①建設年代が古い(旧耐震基準)、②設計基準を超える入力地震動、③地盤・基礎の変状(断層運動によるズレも含め)、④腐朽や施工不良、などが考えられる。日本活断層学会の調査によれば益城町での建物被害が集中した県道28号線沿いに断層があったのではないかと報告されている4)。この点に関して、国土交通省は益城町でボーリング調査などを実施し、断層の有無について中間報告を出している5)。この中間報告によれば、県道28号線沿いに3本の断層があるとされている。この断層の位置は、建物被害が集中した地域と重なっており、こうした断層の存在が建物被害を拡大させた要因かもしれない。なお、発見された断層は「木山断層」という名称で知られていたという。

南阿蘇村では【写真1】に示すように学生向けの木造アパートが多数倒壊(1階の層崩壊)している。これらのアパートは新しいように見える。しかし、柱の接合部を見ると釘だけで固定されていたりするため、構造体は古いまま内装などのリフォームをしたものと思われる。以前から耐震改修の重要性が指摘されているものの、リフォーム時点で耐震改修が推奨され、耐震改修のための補助制度があればこうした被害を防ぐことができたかもしれない。さらには、木造住宅の設計に構造設計者が関与するような体制づくりも必要ではないだろうか。

【写真1】南阿蘇村での木造アパートの被害

RC建築物の被害

鉄筋コンクリート造建物でも被害が多く発生している。特に古い建物では層崩壊なども発生している。その一例としては【写真2】に示す宇土市役所があげられる。5階建ての4層で層崩壊しているように見える。この写真でわかるように右側の菱形の事務所と左側の長方形の建物とがつながっているような平面形をしている。そのため、ねじれ変形が大きくなったことも要因の一つではないかと考えられる。

【写真2】宇土市役所の被害

宇土市役所の周囲には低層の建築物があるものの、それほど大きな被害はみられなかった。やはり当該建物の耐震性が低かったことが一番の被害要因ではなかったかと思われる。また耐震補強されていた益城町役場は本震(16日)により使用不能となったものの、西原村役場は軽微な被害でとどまった。災害時に拠点となる市庁舎や病院、そして避難所となる体育館などはより高い耐震性を持たせるか、あるいは免震構造として設計する必要があるのではないだろうか。

国交省委員会では、RC造建築物で倒壊・崩壊した10棟すべてが旧耐震であり、現行の建築基準を満たすもので倒壊・崩壊に至った建築物はないと報告されている3)。ただし大破した建物は9棟ある。一方、マンションなどでは【写真3】に示すようなエキスパンションジョイント(以下、Exp.J)の被害が発生している。地震の発生時間が夜だったこともあり、幸いなことにExp.Jが落下してけが人などは出ていない。しかし、地震によって建物がどの程度変形するかを考えてExp.Jの可動範囲を決めることが必要だろう。大きな可動範囲をとれないようであれば、落下しても問題にならないような対策を講じておくことが必要だと思われる。

【写真3】エキスパンションジョイントの被害

マンション管理業協会によれば、熊本県内の分譲マンション566棟のうち、527棟でなんらかの被害があり、そのうち、建て替えが必要な「大破」が1棟、大規模補修が必要な「中破」は48棟(約9%)であったと報告されている6)。大破となったマンションは旧耐震の建物であるが、新耐震のマンションでも23棟が中破の被害をうけている。現行の耐震基準に基づけば建物が大破・倒壊にいたる割合は小さいといえる。しかし、中破以下の被害であっても、建物の所有者・居住者にとっては、その後の補修などに多大な負担が求められる場合もある。居住者や購入者に対して建物の耐震性能を事前にわかりやすく説明することも必要ではないだろうか。

文化財の被害

熊本地震では、文化財にも多くの被害がでている。熊本城や阿蘇神社などの復旧には多大な費用と時間が必要となる。これらの国等による指定文化財は時間がかかっても復旧される仕組みが整っているものの、登録文化財や未指定の重要な歴史的建造物に関しては工事費などの補助がないか少ないという。歴史的建造物が解体されるのを防ぐために日本イコモス国内委員会は「熊本地震で被災した文化財等の保存に向けた緊急アピール」を発表するとともに、文化財の被害調査結果も公開している7)

なお、阿蘇神社では楼門と拝殿が倒壊した(【写真4】)。しかし、これら以外に神社での被害はなく、神社周辺の住宅などに目立った被害はない。このため、拝殿などの倒壊は長周期地震動による共振現象による可能性が高い。文献8では震央から479km離れた大阪湾岸に建つ52階建ての超高層建物での強震記録が紹介されている。この建物の1階の最大加速度7cm/s2に対し52階の最大加速度は71cm/s2、継続時間も300秒を超えており、長周期地震動の発生がみられたとしている。阿蘇神社に近いK-NET一の宮の応答スペクトルをみると周期3秒付近に非常に大きなピークがある(【図3】参照)。減衰定数5%のとき速度応答は300cm/s、変位応答も1.5mを超えており、断層近傍でも長周期地震動が発生していたことがわかる。なお、この観測点から3kmほど離れた地点に免震構造の病院があり、設置されていたけがき式変位計によれば、免震層の応答変形は片振幅で46cm程度であった。K-NET観測記録による変位応答に比べ、免震建物の応答変形に大きな差がある点については今後検討が必要であろう。

【写真4】阿蘇神社の倒壊した拝殿

【図3】K-NET一の宮での観測記録の応答スペクトル(EW方向)

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学ぶべき教訓

熊本地震は、益城町において震度7の揺れが連続して発生するなど、これまで経験したことのない地震であった。こうした強い揺れに見舞われた地域では、前震では大きな被害を受けずにすんだ建物も本震の揺れで倒壊した建物も多くあった。断層近傍に建つ建物の設計を行う際には、建築基準法に規定されている耐震性能では不十分であり、より高い耐震性をもたせることが求められる。

これまでの震災でも免震構造はその性能を十分に発揮し、震災後もすぐに機能を発揮できている。震災後に機能保持が求められるような病院や市庁舎など災害拠点となるような施設は、免震構造とすることも検討すべきだろう。

益城町の悉皆調査から、2000年以降の木造住宅では無被害率が60%と高く、耐震規定の妥当性を示す結果となった。また耐震等級3の住宅の有効性も認められた。一方で、柱や筋交いの接合方法が不十分なため大きな被害を受けた建物もあった。建物の耐震性能を確保するためには、筋交いなどの耐震要素を平面的にも立面的にもバランスよく配置し、抵抗力を発揮できるような適切な設計と施工が求められる。今回の地震被害では建物だけでなく地盤の被害も多く見られている。住宅地の地盤特性によっては基礎形式の変更や、より高い耐震性能を目指すことも求められる。さらに、住宅の購入者へ耐震性能に関する適切な情報提供も必要だろう。

そもそも自宅が地震で損壊しなければ、多くの人たちは地震後ライフラインが復旧した段階で、自宅で生活できたはずだ。そのためには、建物の耐震性能の向上と、十分な備蓄により「避難する必要のない建物(住居)」を目指す必要がある。今後発生が想定されている海溝型の巨大地震や大都市直下での地震では、できる限り速やかに自宅での生活を再開・継続するための取り組みを進める必要がある。震災時に大量の避難者が発生することを防ぐことが重要であり、自助の取り組みを充実させることによって、できる限り避難をする必要のある人を減らすことを目指すべきであろう(AIJ建築討論「市民から怖がられる建築」http://touron.aij.or.jp/2016/10/2838参照)。

木造以外の建物では、特に旧耐震の建物に被害が集中した。以前から言われていることだが、旧耐震建物の耐震補強・改修を促進していくことが将来の地震被害を抑制するために不可欠である。

14日の地震の後、軽微な被害であった住宅に戻った人たちが16日の本震で被害にあった例もある。今回の地震では応急危険度判定をする間もなく本震が発生したが、もし応急危険度判定で緑のステッカー(調査済み)との判定がされていたら、住民は安心して自宅に戻るだろう。しかし1回目の地震で建物の耐震性が低下していたら、次の地震で被災する可能性もある。古い建物に緑のステッカーを貼る場合にはそれだけ慎重な対応が求められるものであり、今後の応急危険度判定のあり方についても検討が必要だろう。

最後に、熊本地震での被災された方々ができるだけ早く元の生活に戻れることを祈りたい。

参考文献

1)
Yoshiya HATA, Hiroyuki GOTO, and Masayuki YOSHIMI (2016):Preliminary Analysis of Strong Ground Motions in the Heavily Damaged Zone in Mashiki Town, Kumamoto, Japan, during the Main Shock of the 2016 Kumamoto Earthquake (Mw7.0) Observed by a Dense Seismic Array, Seismological Research Letters
2)
http://committees.jsce.or.jp/eec2/system/files/地震動・地盤震動:秦𠮷弥(大阪大学).pdf
3)
国土交通省「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会(第3回)」委員会報告書案
http://www.nilim.go.jp/lab/hbg/kumamotozisinniinnkai/20160912pdf/0912shiryou2.pdf
4)
防災学術連携体・熊本地震・三ヶ月報告会における日本活断層学会の報告
http://janet-dr.com/11_saigaiji/160716kyushu_houkokukai/20160716pdf/14_jsaf.pdf
5)
国土交通省:熊本地震からの益城町の市街地復興に向けた安全対策のあり方等に関する中間報告について(2016年12月22日)
http://www.mlit.go.jp/report/press/toshi08_hh_000032.html
6)
マンション管理業協会「九州地方会員受託マンションの被災状況概要について(第2報)」
http://www.kanrikyo.or.jp/news/data/160614kyusyu2.pdf
7)
2016 年熊本地震 日本イコモス調査報告書
http://www.japan-icomos.org/pdf/kumamotoreport2016jun.pdf
8)
鹿嶋俊英「平成28年熊本地震の地震及び地震動」、建築防災、2016.9

>> 「第5回:熊本地震での免震構造の効果」(4月掲載予定)