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NZカンタベリー地震と建築物の被害について
第1回 NZの地震環境とカンタベリー地震の概要 第2回 ニュージーランドの免震構造物 第3回 クライストチャーチ地震による構造物の被害―前半― 第4回 クライストチャーチ地震による建築物の被害―後半-
齊藤 賢二

(さいとう けんじ
/ Kenji Saito)
株式会社NTTファシリティーズ総合研究所
建築構造技術本部 本部長

 

< 略 歴 >

1980  東北大学工学部 建築学科 卒業
1982  東北大学大学院 工学研究科 終了
1982  日本電信電話公社 建築局 入社
2007  株式会社NTTファシリティーズ 建築事業本部 構造エンジニアリング部 部長
2008  博士(工学) 東北大学
2012  株式会社NTTファシリティーズ総合研究所 建築構造技術本部 副本部長
構造設計システム部 部長(兼務)を経て現在にいたる

第4回 クライストチャーチ地震による構造物の被害 ―後半―

はじめに

最終回は、建築物の被害のうち残りの組積造、鉄骨造、免震建物、生産施設、ならびに非構造部材や建物の内部の収容物の被害状況の概要についてお話させていただきます。そして、この地震で得られた教訓について纏めてお話しさせて頂きます。

建築物の被害(後半)
補強組積造の建物

補強組積造は、軽微な被害で済んだものもありますが【図1】、大半は取り壊しを迫られる程の被害を受けました。典型的な被害パターンは、壁のせん断破壊と積石ブロックの間に詰めるグラウトの不十分な施工に起因する壁や柱の破壊です【図2】。

【図1】軽微な損傷で済んだ
補強コンクリートブロック造の事例
[EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより]
【図2】補強コンクリートブロック造の被害事例
[EERI Special Earthquake Report - May 2011より]


プレキャストコンクリート構造は、クライストチャーチでも広く普及している構造ですが地震で大きな被害を受けることはありませんでした。ただ、プレキャスト製の階段がズレ落ちるという被害が少なくとも3つのビルで発生し、ビル内にいた人達が何時間もビルの外へ避難できないという事態が発生しました【図3】【図4】【図5】。建物内で火災が発生しなくて、本当によかったと思います。一方向がポストテンション方式のアンボンドプレストレストフレーム、他方向が同じくポストテンション方式のアンボンドロッキング壁からなる「PRESSS」という自己原点復帰型ジョイントシステムを採用していた病院は、地震時に優れた耐震性能を発揮し、地震後も機能維持をはかることができました。

【図3】プレキャスト製階段が崩落し避難できず救助を待つ人々
[EERI/PEER Briefing on February 2011 Christchurch NZ Earthquakeより]
【図4】プレキャスト製階段の崩落現場
[EERI Special Earthquake Report - May 2011より]

【図5】プレキャスト製階段の詳細
[EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより]

鉄骨造の建物

激震地域にあった鉄骨造の建物は、いずれも最新の耐震基準で設計されたもので、ほとんどは被害を免れています。市街にあるパシフィックレジデンシャルタワー(22階、2011年竣工)とクラブタワービル(11階、2009年竣工)は、ともに偏心ブレース付きラーメン構造ですが、ブレースの仕口部の膨張性耐火塗料の剥がれ以外に損傷らしきものは見当たらず、ほぼ弾性範囲内の変形であったと考えられています【図6】。

【図6】被災後のクラブタワービルと偏心ブレース部分の状況
[STEEL BUILDING DAMAGE FROM THE CHRISTCHURCH EARTHQUAKE OF 2/22/2011, NZSTより]

低層の立体駐車場などでブレース端部溶接部の破断やブレースの座屈などは見られましたが、メインのフレームはほとんど損傷を受けていません【図7】。倉庫に設置されている大型の鋼製ラックは、倒壊するなどの大きな被害を受けたものが多く見受けられました【図8】。日本でも鋼製ラック類については用途毎に独自の基準で耐震設計されていますが、一般に建物の設計用地震荷重と比較して小さな(例えば設計用震度k=0.1)地震荷重しか設定していないので、重要なものを収める場合にはラックの耐震性能に対する十分な配慮が必要と思われます。

【図7】鉄骨造の被害事例/ブレース溶接接合部での破断・座屈
[EERI/PEER Briefing on February 2011 Christchurch NZ Earthquakeより]
【図8】倉庫内大型ラックの被害事例/左:主に接合部が破壊、右:全体崩壊
[EERI/PEER Briefing on February 2011 Christchurch NZ Earthquakeより]

免震建物

クライストチャーチ産婦人科病院は、2005年に竣工した南島で唯一の免震建築物です【図9】【図10】。免震の許容変位量は42cm、上部構造が保有するダクティリティのキャパシティは2000年再現期間の設計用地震動に対して1.8となっています。2010年9月の地震では、最大10cm程変形し、残留変位は2.5cm程度と推定されています。上部構造の被害としては、エキスパンションジョイントの軽微な損傷程度でした。また、2月の地震では、最大12cm程変形し、残留変位はゼロと推定されています。これら2つの地震での免震層の最大変位は、直近で観測された地震記録から推測される値の半分であることがわかりました。これは、砕石、座屈した外回りのエクスパンション、さらに免震ピットに溜まった液状化の噴出物が免震層の変形を拘束したのではないかと考えられています。

【図9】クライストチャーチ産婦人科病院
[Canterbury District Health Board 2003 HPより]


【図10】免震層および免震装置/
日本製の角形鉛入り積層ゴム支承
[EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより]

生産施設

プレキャスト製コンクリートパネルを使ったプレファブ工法(TILT-UP工法と呼ぶらしい)で造られた工場の幾つかは、地震による被害で応急的にサポート柱が必要となったようです。TILT-UP工法を用いていたある工場建屋では、屋根を支える梁とコンクリートパネルが接合部で外れて、パネルの上部が約30cmも移動してしまいました。また、西面の壁は、スパン中央までクラックが入るとともに、外側に約3cmも移動してしまったようです。これは、各パネルを緊結する頭つなぎのようなものがなかったことが原因であると思われます。

【図11】工場建屋における鉄骨とコンクリート接合部分の損傷事例/
左:TILT-UP工法による構造壁と屋根鉄骨梁との接合部の被害事例/右:鉄骨フレームと雑壁との接合部の被害事例
[EERI Special Earthquake Report - May 2011より]

無補強組積造建築物

2月のクライストチャーチ地震では、非常に数多くの無補強組積造建築物が大破または崩壊しました。大破した建物の数は9月の地震のおおよそ2~3倍になっています。9月の地震ではほとんど被害を受けなかった建物でも、2月の地震で大破したものが数多くあります。クライストチャーチのシンボルである大聖堂も2月の地震で大破した建物の一つです【図12】。無補強組積造建物の倒壊による犠牲者が非常に少なかったのは、多くの建物が9月の地震以降立ち入り禁止とされていたことが主な理由とされています。

【図12】地震前後のクライストチャーチ大聖堂
[地震後の写真:EERI/PEER Briefing on February 2011 Christchurch NZ Earthquakeより]

数多くの耐震改修済みの組積造が、9月と2月の大きさが異なる地震を矢継ぎ早に経験したことは、耐震改修の効果を知る上で絶好の機会となりました。このことは、ニュージーランドの耐震技術のベースとなっている米国に限らずその他の地震国にとっても、現行の耐震基準を検証する上で絶好の機会となりました。

1968年以降のニュージーランド憲法では、組積造などの耐震化に関する政策は地方行政が進めることとなっていました。9月の地震が発生するまで、クライストチャーチはそれ程地震危険度が大きな地域ではないとされていたため、大規模な改修を行わない限り耐震改修はあくまで建物所有者の努力義務でした。9月の地震以降、今後30年間で全ての補強が必要な建物について、現行耐震基準のおよそ2/3の地震力に対しても崩壊・倒壊しないよう補強することが政策として取り上げられました。しかし、現実には最低1/3の地震力に対して補強することも認められているようです。

9月に、米国と共同で補強済み組積造の特定とその耐震性能の調査が実施されました。2月の地震以降、補強済み組積造の建物について再度調査が行われ、補強済みと判明したものも数多くありました【図13】。現在、2月の地震での激震地区にある無補強組積造建物の7~12%にあたる57棟の組積造建物が耐震改修済みであったものと考えられています。

【図13】大破した耐震改修済みの無補強組積造建物と補強部分の拡大写真/
この建物は地震後EERIの派遣チームにより詳細な調査が行われた
[EERI/PEER Briefing on February 2011 Christchurch NZ Earthquakeより]

組積造建物が耐震改修された時期は、1900年代初頭から2010年の間に及んでいますが、1968年以降改修されたものは比較的高い耐震性能を保有しているようです。補強済み組積造建物の多くは、新築建物の1/3程度の耐震性能は保有していて、さらに高い耐震性能のものもあります。耐震改修工法としては、鉄筋コンクリートや鉄骨フレームを付加する方法、鉄筋コンクリートあるいは補強ブロック壁を増設する方法、あるいは鉄骨ブレースを増設する方法など、実に様々なものが採用されています。しかし、最も一般的な改修工法は3種類の壁アンカー工法です。すなわち、通しボルトによる工法、接着剤による工法、そしてくさびアンカーを用いる工法です。バットレスのような構造物を増設する方法や未補強建物の裏側に新しい建物を増築するといった補強方法も見られます。また、テラコッタの装飾、コーニス、煙突などといった2次部材の補強事例も数多く見られます。

ほとんどの補強済み組積造は、設計用の地震力を上回る程度、あるいは設計用を大きく上回る地震力を受けたと考えられています。したがって、建物の被害状況も、実に様々です。7割の建物は使用禁止、2割の建物は要注意、そして1割の建物が安全であると判定されています。多くの場合、9月の本震およびその後の多くの余震は、その後の2月の地震時の建物耐震性能に影響を与えたと考えられています。アンカー接着剤と躯体との付着破壊が数多く見受けられました。また、低強度のモルタルもアンカー部分破壊の一つの原因と考えられています。この様に、補強済み組積造も被害を受けていますが、それでも未補強のものと比較するとその被害の程度は小さかったようです。特に、細部にわたりしっかりとした補強が施された歴史的建築物の多くは被害を免れています。

【図14】大破した耐震改修済みの無補強組積造建物と補強部分の拡大写真/
この建物は地震後EERIの派遣チームにより詳細な調査が行われた
[EERI/PEER Briefing on February 2011 Christchurch NZ Earthquakeより]

非構造部材の被害

市の中心部において、2月の地震での非構造部材の被害は、9月の地震での被害と同程度でした。オフィスビルや小売店では、照明設備が埋め込まれている天井の落下、書棚の転倒、スプリンクラー配管の切断、家具や機器類の損傷などの典型的な被害が発生しました。ガラスと軽金属から構成されている多くの新築建物のファサードも被害を受けました。損傷した外壁からはガラス片などが飛び散り、建物内の人々だけでなく、被災度調査や救助に来た人々にも恐怖を与えました。そんな中で、大手電話会社の建物は天井などの非構造部材の大きな被害を免れました。なぜならば、その電話会社は9月の地震を受けて、天井に追加の補強材を追加する、さらに照明設備を天井と独立して固定するなどの耐震対策を実施していたためです。

2月の地震の震源により近い市街地東側の工場地帯では、多くの工場で重要な製造装置や装置を支持する部材が甚大な被害を受けました。ある工場では、25,000ポンド(約11トン)の製造装置が約1mも移動しました【図15】。工場の従業員は、装置が大きく跳ね上がった、と証言しています。また、近くの別の織物工場では精密機械が損傷しました。この損傷による生産の中断は一時的なものと思われましたが、敷地内で発生した大規模な液状化で工場建屋のスラブが損傷したために、長期的な生産中断を余儀なくされました。また、9月の地震と同じように、多くの倉庫で大型ラックが倒壊し【図16】、内部に保管していた物資の廃棄に迫られました。

【図15】約1mも移動した11トンの製造装置/
男性の足元が装置の元の位置
[EERI Special Earthquake Report - May 2011より]
【図16】完全に倒壊した倉庫内の大型ラック
[EERI Special Earthquake Report - May 2011より]

今回の地震における教訓

9月の地震の時と同様に、2月の地震でも液状化による被害は甚大かつ広範囲なものでした。クライストチャーチの住宅街では、液状化による地盤の変状のためにより浸水しやすい状態になってしまい、再建築も難しくなってしまったところがあります。2月の地震では、0.5Gを超える地震動により、一部補強済みの建物も含め、未補強の組積造の多くが被害を受けました。補強したにも拘わらず倒壊してしまった建物の調査分析をもとに、より良い設計法と設計規準の再構築が必要とされています。また、今回の教訓は、現在改定が進んでいるASCE31/41のガイドラインに盛り込まれることが期待されています。同様に、非常に短い継続時間の地震によりもたらされた鉄筋コンクリート造建物の広範囲にわたる被害は、破壊メカニズムの解明や耐震性能評価法のさらなる発展に寄与するものと期待されています。今後、建物の耐震性、地盤と構造物の相互作用、液状化と側方流動の影響、建物の設計における余震への配慮などの課題について、世界中の研究者や構造エンジニアとの共同研究が進むことも期待されます。

地震後の建物の安全性評価に関連して、今回の地震で次のことが明らかになりました。つまり、多くの建物が被害を受け街への立ち入りが禁止された場合、建物の設計図書を如何にして入手するか、という問題です。今回の地震の教訓から、緊急時に建物安全性評価に使うための設計図書は、一箇所で集中管理し何処からでもアクセスできるようにする必要があることが判明しました。

今回のニュージーランドの地震は、米国内の地震活動度が低いと評価されていて、めったに地震が起きないと思われている地域に対しても貴重な教訓を残したといえます。米国のこれらの地域では、一般に設計用地震力を低減していますが、今回の地震はそれらの見直しを迫るものだと思います。さらに、この地震により、構造設計者は建物重要度を判断するフローの見直しを迫られています。今後、構造設計者は、一般の人達にもより分かり易い言葉で建物の耐震性能を説明することが求められています。市街にある近代的な建築物は、すべて最新の耐震基準を満たしていますが、それだけでは一般市民の納得は得られないと思われます。

9月と2月の地震以降、被害が大きかった地域住民の耐震安全性に対する信頼は著しく揺らいでいます。カンタベリー大学では、学生と職員に安心感を与えるために、長い時間を掛けてすべての建物の耐震性能の再検証を実施しました。このことは、米国をはじめ他の国にとっても大いに参考になる活動と思います。

最後に、市街地の長期間にわたる復興の問題も重要です。損傷した建物のうち25%は、安全性の見地から直ちに取り壊されました。さらに25%の建物は持ち主の判断で取り壊されることになると思われますが、その際費用負担の問題や再建に向けての基本的な枠組みが重要になってきます。再建に際して、構造設計には次のような永続的な課題が突きつけられています。つまり、既存および新設のインフラに対する許容される損傷のレベルはどの程度か、また、どのような耐震性能メニューを提供することができるのかといった課題です。

おわりに

クライストチャーチ地震では、市街地の多くの建物が倒壊あるいは大破しました。また、東日本大震災では多くの街が津波で壊滅的な被害を受けました。これらの街が復興するまでには、かなり長い時間かかることでしょう。しかし、過去の事例にもあるように、大きな災害を受けた街も必ず立派に復興し、以前にも増して災害に強く暮らしやすい街へと生まれ変わるものと確信しています。災害に強い街作り実現のため、我々建築構造技術者の活躍が求められています。

参考文献

1)
EERI/PEER Briefing on February 2011 Christchurch NZ Earthquake
2)
EERI Special Earthquake Report - May 2011
3)
Canterbury District Health Board 2003 HP