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NZカンタベリー地震と建築物の被害について
第1回 NZの地震環境とカンタベリー地震の概要 第2回 ニュージーランドの免震構造物 第3回 クライストチャーチ地震による構造物の被害―前半― 第4回 クライストチャーチ地震による建築物の被害―後半-
齊藤 賢二

(さいとう けんじ
/ Kenji Saito)
株式会社NTTファシリティーズ総合研究所
建築構造技術本部 本部長

 

< 略 歴 >

1980  東北大学工学部 建築学科 卒業
1982  東北大学大学院 工学研究科 終了
1982  日本電信電話公社 建築局 入社
2007  株式会社NTTファシリティーズ 建築事業本部 構造エンジニアリング部 部長
2008  博士(工学) 東北大学
2012  株式会社NTTファシリティーズ総合研究所 建築構造技術本部 副本部長
構造設計システム部 部長(兼務)を経て現在にいたる

第3回 クライストチャーチ地震による構造物の被害 ―前半―

はじめに

いよいよ今回と次回の2回にわたって、2011年2月22日午後0時51分(日本時間同日午前8時51分)頃、ニュージーランド南島のクライストチャーチ市近郊で発生した直下型地震と建築物の被害についてお話しさせていただきます。

この地震は、本年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震と比較すると規模としては非常に小さなものでしたが、都市の直近かつ非常に浅いところで発生したこと、ならびに街全体が比較的軟弱な地盤上にあったことから規模の割には大きな被害が発生しています。この地震の教訓は、近い将来発生が危惧されている首都圏直下型地震に対する対策を見直す上で非常に貴重なものであると思われます。

地震発生後のクライストチャーチ中心部
【EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより】

2.22クライストチャーチ地震の概要と耐震設計

2.22に発生したクライストチャーチ地震は、同市の南約6km、深さ5kmを震源とする直下型地震でした。米国地質調査所によると、マグニチュードは6.3の横ずれ断層とされています。クライストチャーチ市は人口約37万人、ニュージーランドで2番目に大きな都市です。2010年9月4日にも、同市の西45kmを震源とするM7.0の地震が起きていますが、その後の余震観測等のデータから2月22日の地震は最大の余震とみられています。ちなみに、9月4日の地震はダーフィールド地震と呼ばれています。ダーフィールド地震では、約100人のけが人がでましたが幸い死者はいませんでした。クライストチャーチ地震を引き起こした活断層は、オーストラリアプレートの下に太平洋プレートが沈み込むプレート運動が引き金となって地震を引き起こしたものですが、今回の地震が発生するまでは沖積層が深いこともあり活断層の存在は確認されていませんでした。【図1】に50年間に10%の確率で起こるであろう地震の最大加速度の分布を、【図2】にM5.0以上の地震が1年間に起こるであろう回数の分布をそれぞれ示します。これらによれば、最大加速度の予測値は300gal程度、発生回数の予測値は0.2回/年程度となっています。このように今回の地震発生までクライストチャーチは、比較的サイスミシティの低い地域と評価されていました。なお、このブログでは、9月と2月の地震両者をあわせてカンタベリー地震と呼ぶことにします。

【図1】最大加速度予測値の分布図
【EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより】
【図2】M5以上の地震発生回数予測値の分布図
【EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより】

【図3】には、9月と2月の地震の震源と余震分布を示します。また、【図4】にはニュージーランドの耐震設計基準(NZS 1170.5 2004年)に示されているクライストチャーチに対する再現期間500年と2500年の設計用加速度応答スペクトルを示します。建物の耐震設計は、一般に限界状態設計法を用いて500年再現期間のスペクトルに対して設計されます。その上で、2500年再現期間のスペクトルに対しては崩壊・倒壊を避けるよう適当な余力を持たせることが推奨されています。【図4】には、9月のダーフィールド地震時および2月のクライストチャーチ地震での観測記録加速度応答スペクトルも併記しています。2月の地震動は、1.5秒以下の周期帯で2500年再現期間のスペクトルとほぼ同等の大きさとなっています。この様な観測結果を受けてニュージーランドの構造設計技術者協会では、クライストチャーチにおける500年期待値スペクトルを1.36倍引き上げることが提言されています。

【図3】2010.9.4の本震の震源と余震分布[緑のマーク]/
2011.2.22の地震の震源と余震分布[赤のマーク]
【EERI Special Earthquake Report
- May 2011より】
【図4】設計用スペクトル[500年/2500年]/
図中にはクライストチャーチ病院で観測された
9月と2月の地震波形のスペクトルも併せて示す
【EERI Special Earthquake Report
- May 2011より】

地盤の変状

今回の地震では、市の南部ポートヒルズの崖崩れだけでなく、市の中心部や東部の郊外で前例のないほど広範囲に渡って液状化が発生しました。9月および2月の地震での液状化範囲を、【図5】、【図6】に示します。液状化の発生によりクライストチャーチの50%以上の場所で、噴砂【図7】、地盤沈下【図8】、隆起、側方流動など液状化に伴う典型的な現象が見られました。9月以降の度重なる地震による地盤沈下は、市民の津波などによる浸水の恐怖を助長したようです。液状化による構造物の沈下は、基礎が浅いコンクリート塀や建物に集中しています。反対に、地下に埋設されているマンホールなどは浮き上がり現象を起こしました。また、側方流動も広い範囲で発生し、川沿いの地域では最大1mの流動を観測したところもあります。

【図5】2010.9.4地震時の液状化範囲
【EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより】
【図6】2011.2.22地震時の液状化範囲
【EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより】
【図7】液状化に伴う噴砂
【EERI Special Earthquake Report
- May 2011より】
【図8】液状化による不同沈下
【EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより】

市の郊外では、落石により構造物が被害を受けています。また、多くの崖崩れも発生しています。崖崩れした場所の中には、9月の地震で崖にクラックが入り2月の地震で崩れてしまったケースもありました。特に震源に近いところの崖は、地形効果により上下動が増幅した影響もあるようです。余震による更なる崖崩れによる被害を防ぐための応急の落石防護対策を施すために、緊急度の高い場所を選定する作業にかなりの時間を要したようです。

ライフラインと交通機関の被害

上下水道、排水施設、道路、変電設備など多くのライフラインが広範囲にわたって被害を受けましたが、被害の原因の多くは液状化に伴う不同沈下や側方流動によるものです。送電網も9月の地震時と比較して10倍以上の被害を受けました。ニュージーランドでは多くの送電線が地中に埋設されているため、液状化に伴う地盤の変状により66kVの幹線ケーブルの50%以上が寸断されてしまいました。ケーブルの地中埋設は景観上は好ましいのですが、被災後の復旧により時間がかかるという問題もあるようです。ただ、高密度ポリエチレン製の水道管や中密度ポリエチレン製のガス管については、もっとも揺れが激しかった地域でもほとんど損傷を受けなかったと報告されています。

橋梁の多くは被害を免れました。多くの橋梁は、短スパンで整形な形をしていてプロポーションも安定しているためであると言われています。橋梁の被害の多くは、地盤の大きな変形に伴う橋脚や杭の損傷によるものです。建築物でも同じことですが、杭の損傷については簡単に調査することができないため、今後の調査により被害の拡大が懸念されています。橋梁に付帯したパイプラインも被害を受けたものが多く、廃液の河川への流出や築堤の破損といった被害をもたらしました。

建築物の被害

クライストチャーチ市街にある4階建て以上の建物のほとんどは、鉄筋コンクリート造か補強コンクリートブロック造でできています。鉄骨造の建物は、ほとんどありません。現場溶接を採用すると工期が非常にかかってしまうという問題からニュージーランドでは1980年代以降鉄骨造はほとんど採用されていません。

鉄筋コンクリート造や補強コンクリートブロック造には、大破したもの、部分的な損傷を受けたもの、ほとんど無損傷のものがありました。これらの明暗を分けた要因としては、材料、建設年代、構造計画、地盤条件、地震の揺れの大きさなどが挙げられます。

建築物の被害のなかでも、特に液状化に伴う建物の不同沈下の被害が多く発生しています。これらの被害の原因としては、同一建物での床付け深さの違いや、先端深さの異なる杭の混在などが挙げられています。【図9】は、不同沈下の典型的な事例です。手前建物は床付け深さが浅い直接基礎、奥の建物は杭と直接基礎の併用基礎となっています。

【図9】液状化に伴う建物不同沈下
【EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより】

2つの鉄筋コンクリート造のオフィスビルが倒壊しました。一つはCTVビル【図10】、もう一つはPGCビル【図11】です。CTVビルでは、何人かの日本人留学生も犠牲になり、直後にはマスコミにより関連する報道が盛んに流されていたのでまだ皆さんの記憶にも新しいのではないでしょうか。CTVビルは1980年代に設計されています。構造形式は耐震壁付きラーメン構造で、南面に一対の耐震壁と北面にはコア壁が配置されていました。地震により北面のコアを残してすべて倒壊してしまいました。PGCビルは1960年代前半に設計施工された、平面から突出したコアをもつ5階建てのオフィスビルです。2階から5階部分が倒壊しましたが、1階部分は倒壊を免れています。この2つのビルに共通している特徴は、梁がしっかりしているのに対して、柱が細いということです。どちらも柱には鉛直力だけ持たせて、水平力はコア壁に負担させるという構造計画と考えられます。この様な構造に対する問題としては、コアと居室部分を接続するスラブの剛性と強度が十分でないと水平力がコアに完全に伝わらないことと、柱に曲げ強度が足りないと、一旦建物が傾いてくるとP-Δ効果で崩壊に至る可能性があることです。日本でもこれらに似た構造の建物がありますが、接続スラブの剛性・耐力の確保、純ラーメン部分も地震力の何割かは負担するものとして柱の設計を行うなどの配慮が一般になされているのでこれ程の被害は考えられません。

【図10】被災前後のCTVビル
【PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより】
【図11】被災前後のPGCビル
【PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより】

フラットスラブ構造の駐車場でパンチング破壊を起こした事例もあります【図12】【図13】。この駐車場は、床はプレストレスト構造でした。クライストチャーチで有数の高さを誇る19階建てのホテルグランドチャンセラー【図14】は、1階の柱などに大きな損傷が発生し地震後に残留変形が残りました。この建物の東側1スパンは片持ち形式となっており、この荷重を受けるために7階部分に壁状の乗り換え梁が設けられています【図15】。この乗り換え梁を支えている1階の壁柱が面外にせん断破壊しています【図16】。乗り換え梁と同じ構面の6階の3本の柱が、せん断あるいは圧縮破壊を起こしました【図17】。建物は、その後の多くの余震でも変形が進むことはありませんでしたが、1週間以内に大破した柱は応急的な補強が施されました。この建物は、取り壊される予定です。

【図12】フラットスラブ構造駐車場の崩壊
【EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより】
【図13】パンチング破壊部の詳細
【EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより】
【図14】被災直後のホテルグランドチャンセラー
【EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより】
【図15】軸組図
【EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより】
【図16】1階壁柱の破壊
【EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより】
【図17】6階柱の破壊
【EERI/PEER Briefing on February 2011
Christchurch NZ Earthquakeより】

クライストチャーチ地震の揺れは、短時間に比較的大きなパルス的な強いものであったため、多くの建物で弱点となる部材が大きなダメージを受けました。被害は、古い建物だけでなく最近の建物でも見受けられましたが、ニュージーランドに限界耐力法的な設計が導入される以前の1980年代中頃以前に建設された建物により多くの被害が見られました。鉄筋コンクリート造建物の被害原因は、概略以下のように整理されています。


① 平面的、立面的にバランスの悪い耐震構造計画

② 耐震性の低いディテール

③ 補強コンクリートブロック造での不十分なグラウト補強


1980年代中頃以降に建設された鉄筋コンクリート造は、ほとんどが軽微な被害に留まっています。ただし、耐震壁が大きく損傷した事例が見られました【図18】。【図18(d)】の事例では、耐震壁が面外へ座屈して、縦筋も大きくはらみだしています。【図19】に示す建物は、水平力を建物両サイドのL形のコア壁で処理する構造計画となっていますが、地震で壁脚部分が山形鋼のように座屈して大きな損傷を受けています。損傷していない側のコア壁は、内部にエレベーターシャフトや階段室の雑壁があったお陰でコア壁そのものには大きな力が働かなかったためと考えられている。

(a)柱のせん断破壊
(b)プレキャスト壁の破壊
(c)柱梁接合部の破壊
(d)壁の破壊
【図18】鉄筋コンクリート造建物の被害事例【EERI Special Earthquake Report - May 2011より】
【図19】鉄筋コンクリートコア壁の被害事例/壁配筋は十分であったが圧壊・座屈してしまった
【EERI Special Earthquake Report - May 2011より】

おわりに

今回は、クライストチャーチ地震の概要、液状化を中心とした地盤の被害、ライフラインをはじめとするインフラの被害、それと建築物の被害のうち鉄筋コンクリート造建物の被害の概要についてお話をさせていただきました。

次回は、残りの組積造、鉄骨造、免震建物、生産施設、ならびに非構造部材や建物の内部の収容物の被害状況の概要についてお話させていただき、ニュージーランドにまつわるお話しは最終回とさせて頂きます。

参考文献

1)
EERI/PEER Briefing on February 2011 Christchurch NZ Earthquake
2)
EERI Special Earthquake Report - May 2011