(きたむら はるゆき / Kitamura Haruyuki) 東京理科大学 理工学部 建築学科 教授
<略歴>
地震動に対する鋼構造建物の累積損傷を評価する方法として、エネルギーの釣合に基づく建築物の耐震設計法(以降エネルギー法と呼ぶ)がある。 地震動による建物への入力をエネルギーにより評価し、構造骨組の降伏層せん断力の最適分布に対する偏りに応じて各層に塑性履歴エネルギーを配分するものである。 このエネルギー配分則のもとに、入力エネルギーと建物の吸収するエネルギーの釣合式から、構造骨組の各層の塑性履歴エネルギーとそれから求まる累積塑性変形を予測するものである。 さらに、層の累積塑性変形の最大塑性変形に対する比率adを介して最大層間変形を予測している。
一方、コンピュータの計算能力の飛躍的な進歩と普及に伴い、静的弾塑性解析で用いられる架構モデルを、そのまま弾塑性応答解析する部材レベルの時刻歴応答解析が、設計においても用いられるようになってきた。 特に、1995年阪神淡路大震災以降、ほとんどの超高層建物で採用されるようになった制振構造では、制振効果を適切に評価するために部材レベルの時刻歴応答解析が行われている。 このような解析は膨大な出力の整理や、モデル化や入力の誤りを確かめることに多大な労力を要する。 計算結果を有効に利用するためにも、目安となる簡便な応答評価法が求められている。
長周期地震動に対する超高層建物の耐震安全性の検討には、架構や部材の累積塑性変形や塑性歪エネルギー吸収量などの累積値に対する評価が必要とされており、そのためには時刻歴応答解析結果をもとにエネルギー法を適用して累積損傷を評価することが、有用な方法と考える。
ここでは、長周期地震動による鋼構造超高層建物の時刻歴応答解析から求まる結果に、エネルギー法を用いた建築物の耐震性を評価する方法とその手順を提案する。 その方法を用いて、長周期地震動の入力エネルギーがどの程度の大きさになるのか、そのエネルギーがどこに配分されたか、どこに損傷が集中したか、その結果として層や部材がどの程度の損傷を受けたかなどを総合的に評価する。
エネルギーの釣合式は,主架構の弾性振動エネルギーfWe(t)、塑性履歴エネルギーfWp(t)、減衰による消費エネルギーfWh(t)と、制振部材の弾性振動エネルギーsWe(t)、塑性履歴エネルギーsWp(t)の総和が入力エネルギーE(t)と等しく、地震動が始まって(t=0)から終わる(t=t0)までの全継続時間t0で成立する。
下から減衰による消費エネルギー、塑性履歴エネルギー、弾性振動エネルギーを積み上げ、入力エネルギーと一致することを表した時刻歴応答の模式図を図1に示す。 斜線を引いた弾性振動エネルギーfWe(t)、sWe(t)は,層間変形や層せん断力などの最大応答値発生時刻(t=tm)において最大値となり、地震動終了時(t=t0)ではほとんど消滅する。 エネルギーを累積する主架構や制振部材の塑性履歴エネルギーfWp(t)、sWp(t)と減衰による消費エネルギーfWh(t)は地震終了時(t=t0)に最大となる。
長周期地震動による鋼構造超高層建物の時刻歴応答解析から求まる結果にエネルギーの釣合に基づく耐震設計法を適用して、建築物の耐震性を評価する方法を説明する。 説明に用いた解析結果は、巻末に示す30階建ての鋼構造架構モデルを用いたものである。
対象建物は、鋼構造30層純ラーメン架構(純ラーンメンモデル)とその架構(主架構)に履歴減衰型制振ブレースを付与した制振架構(制振モデル)とし、1階大梁を含む地上部のみをモデル化する。各階床重量は10.4(kN/m2)とし、制振架構の梁伏図、軸組図を付図1、2に、部材断面を付表1に示す。制振ブレースの設置位置を付図1中の太実線で示し、付図2に示すようにハの字形状に1階から30階まで連層に取り付ける。純ラーメン架構はC0=0.3に対して許容応力度設計する。また、柱の終局耐力を梁の1.5倍以上にした梁降伏型架構とする。荷重増分法による静的弾塑性解析より、本架構は、設計層せん断力の約1.7倍で梁部材が初めて全塑性モーメントに達し(弾性限耐力fαy1=0.14)、終局耐力(fαu1=0.17)は約1.9倍を示した。制振ブレースの降伏層せん断力係数sαyiは、第1層でsαy1=0.01とし、その高さ方向の分布はAi分布とする。