ホーム   東日本大震災を経験して / 源栄 正人    第4回:特徴的な建物被害
  • 第1回:大地震を振り返る~震災当日、初動調査、地震動と被害の情報発信
  • 第2回:観測された地震動と建物の耐震設計へのインパクト
  • 第3回:衝撃的な「学び舎」の被害
  • 第4回:特徴的な建物被害
  • 第5回:求められる都市・建築の総合的地震対策
  • 第6回:リアルタイム地震観測と地震防災対策
源栄 正人

(もとさか まさと
/ Masato Motosaka)
東北大学教授

 

東北大学/災害科学国際研究所

(東北大学大学院工学研究科、都市・建築学専攻 兼担)

 

< 略 歴 >

1952年茨城県生まれ。工学博士。東北大学大学院工学研究科建築学専攻修了。鹿島建設株式会社での研究と実務、東北大学大学院工学研究科助教授、教授を経て、現在、東北大学災害科学国際研究所教授(地震工学・地震防災)。

 

< 著 書 >

緊急地震速報―揺れる前にできること

宮城県沖地震の再来に備えよ

大地震と都市災害 (都市・建築防災シリーズ)

第4回
特徴的な建物被害

明暗を分けた1978年宮城県沖地震における杭基礎被害建物

仙台市宮城野区のSマンション(14階建てSRC造、塔状比3.6、杭長24m)と仙台市太白区長町の郡山市営住宅(11階建てSRC造、塔状比3.7、杭長12m)は、1978年宮城県沖地震で杭基礎に被害を受けた建物であり、エキスパンション・ジョイントを介して2棟がL字型のプランを有する集合住宅である。長町の市営住宅では南北方向に強い地震動の方向性によりこの方向が短辺方向であるA棟が1°(約1/60)傾斜してしまった。Sマンションと市営住宅の被害状況と復旧・対策は恩師の志賀敏男先生により詳細に報告されている1)。その1978年の地震による被災後の対策が東日本大震災では、明暗を分けた。この2つの杭基礎建物は、筆者が担当している講義「地盤と都市・建築」の課題レポートとして、学生に毎年現地視察させていた経緯もあり、被害状況が気になり震災翌日に初動調査を行っている。

何が明暗を分けたか? Sマンションは1978年宮城県沖地震で杭基礎の被害を受け補修しただけであった。3.11の本震でA棟は1/56傾斜し、4.7の余震で1/45に増大した2)。東日本大震災では、78年宮城県沖地震を上回る揺れであったと推定され、Sマンションは杭の損傷(推定)により傾斜し解体された(【写真1】参照)。これに対し、長町の市営住宅(A棟)は、周期1秒付近の大きな揺れにも関わらず、無被害で済んだ。これは、1978年宮城県沖地震の直後に行った基礎の補強工事(【写真2】参照)の効果によるものであったと判断でき、明暗を分けた一つの要因であった。

【写真1】傾斜したSRC造14階建のSマンション(左)全景(右)Exp.J部の開き

【写真2】基礎の補強効果により構造被害が無かった仙台市太白区の市営住宅

建物被害を論じる場合、建物の耐震性性能ばかりでなく、入力地震動の大きさも考慮しなければならない。2つの建物の敷地地盤における地震動の推定を、3.11本震において仙台駅前の住友生命ビルで観測された記録(NS方向)、および仙台市の地震被害想定で用いられた深部地盤構造と表層地盤に関するに関するメッシュデータを用いて評価した3)。【図1】に2地点の疑似速度応答スペクトルを比較して示す。図中には、住友生命ビルの応答スペクトルも比較のために示してある。この図において、宮城野区高砂のSマンションと太白区長町の郡山市営住宅の位置の地震動を周期1秒付近のスペクトル値で比較すると、Sマンションのスペクトル値の方がかなり大きく200cm/sを超えていることが分かる。したがって、東日本大震災で傾斜して解体するに至った高砂のSマンションは、長町の郡山市営住宅に比べと耐震性能が劣っていたところに入力地震動も大きかったといえる。周期1秒で200cm/sという速度応答値は、ベースシェア係数で1.0を超える値である。

【図1】疑似速度応答スペクトル

【図2】建物の沈下測定結果(敷地内の基準点に対する値:単位m)

Sマンションのような分譲の集合住宅では、合意形成の問題は復旧復興上の問題でもあり、市営住宅の場合と明暗を分けた。Sマンションの上部構造の解体は、公費で解体され、基礎の沈下測量もなされた(【図2】参照)。沈下測定結果から分かることは、傾斜角と整合すること、および、傾斜していないB棟に対しA棟の西側では浮き上がった状況であり、東側では大きく沈んでいることである。強震時に杭頭に引っ張り力が生じ、これに耐えられなくなって浮き上がり、反対側の杭が圧壊したことが傾斜要因として示唆された。このことは、震災から5年後に、同規模の集合住宅の建設が決まり、基礎の解体工事の際に、杭基礎の被害状況を確認する機会を得ることができ、東側中央部のほんの一部ではあるが、東側中央部の基礎のフーチングと4本の杭のうちの2本の杭頭の損傷状況を確認した。その結果、重機で簡単にフーチングを裏返しできたことでコンクリート既製杭とフーチングの接合度の弱さを痛感するとともに、杭頭の被害状況がかなり異なり、裏返しされたフーチングに杭頭の一部が着いてきたのは損傷の大きい方であり、他方は接合度が極めて低かったと示唆された。

ところで、杭基礎建物に関しては、耐震基準の変遷を考慮し、旧基準による杭基礎建物、特に搭状比の大きな建物は要検討である。

東日本大震災による杭基礎建物被害では、傾斜被害を受けた集合住宅が他にもある。筆者が把握している建物では、宮城県内にあるGマンション(14階建てSRC造、塔状比3.7、杭の長さ25m程度)が1/100している。仙台市のSマンションは、前述のように塔状比が3.6、杭の長さは24mであり、移動共振問題としての建物の耐震設計問題を考えるとほぼ同じ条件のものである。

基礎構造の耐震設計問題について考えると、上部構造は2次設計がなされるようになったが、基礎構造は2次設計がなされていなく、耐震性能に不整合がある。2007年に塔状比4.0を超えるものについては告示による規制強化がなされたが、上部構造に対して耐震性能が不足しているのは事実であろう。特に、表層地盤の増幅による地震動と建物の共振が多くの既存建物で懸念される。新築の建物に対しては共振現象を考慮した耐震性能の確保が必要である。

上部構造に被害がなくても杭の損傷により解体せざるを得なくなった建物(仙台市若林区卸町Kビル)や耐震改修を行った校舎の杭基礎被害(大崎市F高等学校)もある。上部構造と基礎構造の耐震クライテリアは地震リスク(リスク低減ばかりでなく保険によるリスク転嫁)を考える上で重要な課題の一つである。液状化した地盤における杭基礎建物の被害に対する対策も含めた地震対策を考える上で大きな課題であろう。

細長い平面を有する杭基礎建物の被害

仙台市宮城野区の大規模造成地の谷地形急傾斜盛土部に建つ東西方向に細長い平面プランの店舗兼集合住宅RC造5階建ての杭基礎建物の被害は特徴的である。この建物は、店舗兼住宅棟と3つの階段棟で構成されている。店舗兼住宅棟は、梁間方向1スパン、桁行方向16スパンの細長い平面を有する一体基礎の杭基礎建物で基礎梁の梁せいは1.2m、梁間方向には耐震壁を有し、桁行方向は純ラーメン構造である。3つの鉄筋コンクリ―ト造杭基礎の階段棟(5.3m×2.9m)が10cmのエキスパンション・ジョイントを介して設置されており、第1と第3階段棟は梁間方向(南北方向)に弱軸、第2階段棟は強軸の平面形状である。

【写真3】建物全景(北西からの撮影)

【図3】急傾斜地に建つ細長いプランを有する杭基礎建物

東日本大震災では、本震で第1階段棟と第3階段棟の脚部が曲げ振動により損傷し傾斜した。傾斜角はそれぞれ、1/30、1/50であり、脚部に曲げ振動による損傷が認められた。地震動の主軸は、店舗のフラグスタンドがほぼ北側に移動していたことから南北方向と推定される。第2階段棟に傾斜が見られないのは、地震動の主軸に対し、構造が強軸であったことに起因すると思われる。また、店舗兼住宅棟の段差基礎部での損傷(【写真4】)とともに、東側2スパン目の1階~4階の梁にせん断亀裂が見られる損傷(【写真5】)があり、非構造壁のせん断亀裂の発生により東側2スパン10戸のドアの開閉が不可となる被害を生じた。これらの被害状況を見ると設計段階における基礎を一体化すべきか、切り離すべきかの技術的判断が必要であり、切り離す場合には構造物間の適切な相対変位量評価の必要性を指摘したい。

ところで、この店舗兼住宅棟の住民の証言として、「北側の廊下が上下に波打っていた」との証言がある。筆者は、この上下の波打ち現象に興味を持ち、建物を曲げせん断棒に置換し、杭基礎を軸バネとしてモデル化することにより得られるモデル、いわゆる「バネ支持された(曲げ)せん断棒」の波動伝播特性の分析により波打ち現象の解明に取り組んできている。

この建物の波打ち現象を伴う被害の分析を通じ、広がりのある構造物の入力地震動として一様入力の仮定の限界と共に、振動エネルギーの水平方向への移動に対する設計的配慮の必要性を痛感している。当該建物の場合、谷地形を伝播する表面波等による見かけ上の位相差入力に対する動的応答性状を把握し、建物の長軸方向に異動する上下動による上下せん断力と長軸方向の水平力と干渉による梁のせん断力を考慮する必要がある。

【写真4】段差を有する基礎部の損傷

【写真5】RC造梁の損傷

吊り天井の落下被害

東日本大震災では、東京九段会館での2名の犠牲者が出るなど大空間を有する構造物であるホールや大型店舗の天井材の落下により犠牲者を出し、責任が問われるとともに対策が求められた。文教施設関連だけでも1,630箇所の天井被害があったと報告されている。また、国土交通省が実施した151箇所の天井被害の調査によると1,000m²を超える大規模天井の被害も54件報告されている4)。この被害報告によると振れ止めがあった天井も多く落下している。初めて犠牲者を出し責任が問われるとともに対策が求められている。天井落下は多目的ホールや行政庁舎の議会ホールなどで目立った。使用していなかったために大事に至らなかったケースが多々あったことを忘れてはならない。

【写真6】は、筆者が視察した仙台市内の建物の天井材落下被害状況である。たまたま未使用の時間帯であったことが幸いしたが犠牲者が出る状況であった。

【写真6】仙台市太白区の文化センターホールの吊り天井落下被害

【図4】仙台市太白区の多目的ホールの屋根中央部における微動観測結果

【図4】には【写真6】に示す天井材落下被害があった仙台市太白区の多目的ホールの屋根面中央部で微動計による振動測定を行った結果を示したものである。水平動入力により励起されると推定される2.3Hz付近の上下動の卓越が見られる。5Hz付近と8Hz付近にも上下動の卓越周期が確認できる。

このような大空間構造物では、例え横揺れの入力に対しても屋根面には大きな上下動が誘発される。天井材の耐震設計においては、この上下動に対する配慮と、横揺れに対しては十分なクリアランスの確保が必要である。天井材の落下被害状況を見ると、上下動に対する耐力不足と水平動による非構造材同士の衝突が主な原因となり、被害が拡大したと考えられる。非構造材の上下動に対する荷重設定(水平動の0.5倍)は甘いと言わざるを得ない。また、地震エネルギーが地盤から建物に入り構造躯体、屋根を介して天井材が揺すられることを考えると、共振が重なるとオーダー違いの揺れにならないとも限らない。発電用重要構造物で行っているような床応答スペクトル法などの適用が必要である。さらに、吊り天井の振動問題は曲げ材をバネで支持するシステムと見なすことができ、バネの剛性が曲げ材の剛性に対して特定の値(閾値)以下になった場合に振動エネルギーが水平に伝播するようになる。

吊り天井の落下被害で筆者が思い出すのは、2005年の宮城県沖地震の際に仙台市泉区の屋内プール施設の釣り天井落下被害である5),6)。幸い犠牲者は出なかったが35名の重軽傷者を出した。【写真7】には、この地震における仙台市内の屋内プール天井落下被害状況を示す。左の写真は水平動により励起される振動モードの節の部分の天井が残っていることを示しており、水平動により励起される上下動が天井被害に影響していることを示唆している。右の写真は、監視カメラが捉えた天井落下のである。筆者は、地震直後の被害調査を行い、「天井が波打つように揺れていた」という証言があることが分かった。また、天井落下の要因分析のために被害建物における地震観測5)、および、3次元立体解析モデルを用いた地震応答性状の検討や天井材の上下振動エネルギーの水平移動に関する基礎検討を行った6)

【写真7】2008年宮城県沖地震における仙台市内の屋内プール天井落下被害状況

【図5】地震観測に基づく天井落下被害建物の地震応答性状(11地震)

地震観測では、余震を中心に11の地震観測結果が得られ、建物基礎の水平動に対する屋根の水平動の最大加速度比は平均2.5倍であるのに対し、屋根の上下動は平均3.8倍とかなり増幅しており、屋根における上下動と水平動の最大加速度比は平均1.5倍であった(【図5】参照)5)

被害建物3次元立体解析モデルを用いた地震応答解析では、入力地震動として仙台市の地震被害想定調査業務で用いた想定宮城県沖地震(NS:213ガル、EW:159ガル)、推定サイト波(NS:332ガル、EW:301ガル)や筆者らの松森小学校での観測記録(NS:279ガル、EW:236ガル)を入力したところ、地震応答量は、屋根面の上下動は水平動よりもかなり大きくなり、最大加速度は、いずれの入力に対しても1Gを超える値となった。敷地近傍の松森小学校における観測記録を入力した場合の上下動は特に大きな値で、加速度で4Gを超える値となった。

ところで、東日本大震災の天井被害の経験を踏まえ、2013年7月に建築基準法施行令が改正され、特定天井の特定天井として、6mを超える高さにある面積が200m²、質量2kg/m²を超える吊り天井に対する脱落対策について規定され、仕様ルート、計算ルート、特殊検証ルートに分けた適用方法を設定するとともに、2013年8月に国土交通省告示(771号)により、吊り天井に関する技術基準の公示設計が要求されるようになった。クリップ、ハンガー等の接合金物に関しては、ねじ留め等により緊結の仕様、吊りボルト、斜め部材等の配置に関しては、密に配置とし吊りボルト1本/m²や強化した斜め部材等を規定している。設計用地震力(水平方向)は最大2.2Gとし、クリアランスを6cm以上としている。

これらの規制の改正は、犠牲者を出し責任が問われた天井被害対策として位置づけられるが、建築基準法は最低基準を示したものであり、個々の建物の状況に応じたより高度な耐震対策、性能設計時代における余裕度の評価が望まれる。

いずれにせよ、天井材など重要な大空間にある非構造材や設備の地震対策として、筆者は以下の点に対する配慮の必要性を指摘したい。

  1. 水平方向の外力ばかりでなく、上下方向の地震荷重の適切な評価が必要であり、太鼓たたきのイメージが必要である。
  2. 繰り返し荷重に対する天井材の健全性の確認が必要であり、釘抜きをイメージする必要がある。
  3. 地盤、建物躯体、屋根を通して地震波が伝わることを考えた地震荷重の設定が不可欠であり、共振現象に対する配慮が必要である。
  4. 天井材に作用した地震エネルギーが水平に伝播することがないことを確認する必要がある。すなわち、天井が波打つ現象を避ける必要がある。
  5. 設備・配管工事との連携・調整も必要である。

参考文献

1)
志賀敏男、コンクリート杭と地震、コンクリート工学Vol.18,No.8, 14-21, 1980.
2)
M. Motosaka and K. Mitsuji, Building damage during the 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake, Soils and Foundations, 52(5), 929-944, 2012.12
3)
東日本大震災合同調査報告書編集委員会、建築編5(建築基礎構造)DVD版5.1.13、2014年10月
4)
(社)建築性能基準推進協会報告書、2011年9月
5)
源栄正人他、天井落下被害を受けた空間構造物の地震観測に基づく動的応答性状、第24回日本自然災害学会学術講演集、39-40、2005年
6)
源栄正人、天井落下被害を受けた屋内プール施設の屋根と吊り天井の動的挙動に関する基礎的検討、第25回日本自然災害学会学術講演集、19-20、2006年

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