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都市環境学で紐解く地震と建築
第1回 現代社会の足下を点検 第2回 地震が歴史を動かす 第3回 地名に見る地盤の診断 第4回 建物と地盤の相性 第5回 周期と減衰が揺れを司る 第6回 伝え率先し耐震化促す
福和 伸夫

  プロフィール
(ふくわ のぶお
    / FUKUWA Nobuo)
名古屋大学大学院 環境学研究科
都市環境学専攻建築学系
環境・安全マネジメント講座 教授

福和伸夫のホームページ: http://www.sharaku.nuac.na
goya-u.ac.jp/~fukuwa/

ぶるるのページ: http://www.sharaku.nuac.na
goya-u.ac.jp/laboFT/bururu/


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第4回 建物と地盤の相性

地盤の揺れ

私たちは、都市への人口集中によって、生活の場を軟弱な沖積低地や丘陵地に広げました。

一般に、軟弱な地盤では洪積台地のような堅固な地盤に比べて地震の揺れが強くなります。

強い揺れを受ければ地盤が非線形化・液状化します。

一方、開折が進んだ台地や丘陵地の斜面では、地盤の切り盛り造成が行われ、平面的に地盤性状が変化した不整形地盤となります。

首都圏であれば、下町低地~武蔵野台地~多摩丘陵を思い浮かべればよいでしょう。

大阪の場合は低地~上町台地~千里丘陵、名古屋の場合は低地~熱田台地~東山丘陵となります。


私たち建築構造設計者は多くの場合、建築基準法で規定される地震荷重に対して耐震安全性を確認していますが、基準法は最低基準を旨としているため、地盤条件による地震荷重の差は殆ど考慮していません。

地震の揺れという自然現象を考えれば、基準法のみを考えた設計は褒められた設計ではありません。

本来は、地盤の硬軟や地盤の不整形性による揺れの違いについて、発注者や意匠設計者に対して分かりやすく説明し、強い揺れが予測される場所では必要耐力の割増しをすることが必要です。

このためには、私たち構造技術者が地震時の地盤の揺れについて分かりやすく説明する力を持つことが必要です。

一般の方に地盤の揺れをどう説明するか:豆腐実験

簡単な実験をすることで、一般の方の理解度は一気に高まります。

たとえば、スーパーマーケットで豆腐のパックやプリンなどを買ってきてはどうでしょう。

パックの蓋を剥がして、豆腐をパックの中に入れたまま左右に揺すると、周辺のパックが堅い地盤、中の豆腐が柔らかい地盤の不整形地盤となります。

豆腐の表面の揺れを見ると場所によって揺れ方がちがうことが分かります。

また、左右に揺する周期を変えることで豆腐の表面が弓なりに大きく揺れる周期を見つけることができます。

この実験は、溜池を埋め立てた不整形地盤の揺れや周辺を山で囲まれた大規模堆積平野の揺れを再現しています。

大きさや堅さの異なる豆腐を買ってくれば、不整形地盤の平面規模や厚さ、地盤の堅さによる揺れの違いもわかります。

材料は何でも大丈夫です。

豆腐、プリン、ヨーグルト、ババロア、ういろう、羊羹、寒天、トコロテンなど、いろいろな素材で実験をしてみては如何でしょうか。

プリンと羊羹とで軟弱地盤と硬質地盤の揺れ方の違いの実験した後、おやつの時間にするというのも楽しみの一つです。


次に、パックから豆腐をまな板の上に取り出してまな板を左右に揺すってみましょう。

そうすると豆腐が見事にせん断震動します。

硬い地盤であるまな板に比べて、軟弱地盤の豆腐の表面が強く揺れることが実感できます。

また、特定の揺れの周期のときに豆腐の揺れがとても大きくなることも分かります。

この実験を通して、どんな地盤も揺れやすい周期=卓越周期を持っていることを解説することができます。


そして、豆腐を上下に切り分けて、豆腐の塊を薄くしてみるとよく揺れる周期が短くなることを示すことができます。

逆に2つの豆腐を縦に重ねれば厚い堆積層となり周期が長くなります。

豆腐の下にコンニャクを敷けば、2層の平行成層地盤になります。


ついでに、コンニャクを消しゴムのような大きさに切って、豆腐の上に載せて揺すれば、立派な動的相互作用実験ができます。

本物の消しゴムとコンニャクを比較することで、剛構造と柔構造による動的相互作用効果の違いを実感できます。

さらに、コンニャクの大きさや高さを変えたり、豆腐の中に埋め込んだり、コンニャクに爪楊枝を履かせて豆腐の中に差し込んだりすれば、さまざまな規模や高さの建物の実験を、根入れ基礎や杭基礎をイメージして実施することも可能になります。


こんな実験を見た発注者は、きっと地盤の揺れのことを大事に考えて建物の耐震設計を依頼するようになるでしょう。

豆腐 振動実験
豆腐+蒟蒻 振動実験
プリン 振動実験
※実験実施・撮影:SEIN WEB編集室
※実験に使用した食材は撮影後、スタッフがいただきました♪

学生や技術者が知っていてほしい地盤の揺れの特徴

建築の学生や技術者には、もう少し理屈も含めて理解をしてもらいたいと思います。

たとえば、地盤の硬軟による揺れの強さについての解説はどのようにすると良いでしょうか。

私は、次のように説明することが多いです。

地層は深いところほど堅く、地表に近付くに従って軟らかくなります。

地盤の中を伝わる地震波のS波速度はVs=√(G/ρ)(Gは地盤材料のせん断弾性係数、ρは質量密度)と定義されますが、一般に、S波速度は、地盤深部から浅部になるに従って遅くなります。

ちなみに、地震基盤と呼ばれる基盤岩のS波速度は3000m/s程度、建物の基礎を支持する支持基盤相当の工学的基盤のS波速度は400m/s程度、軟弱な沖積地盤のS波速度は100m/s程度と考えられます。

地盤の中で揺れがあまり減衰せず、地震波が伝える単位時間当たりのエネルギーは変化しないので、地震波の伝播速度が遅くなるに従って揺れの振幅が大きくなります。

基盤のS波速度は共通ですから、軟弱な地層が上に乗っている沖積地盤では揺れが強くなることになります。

これは、津波の高さが海底が浅くなるに従って高くなることと良く似ていますね。


次は地盤の卓越周期についてです。

地震波は地表面や地層の境界で反射・屈折を繰り返します。

サイン波のように繰り返し振動する地震波を考えてみましょう。

地表に到達した波は、地表で反射して基盤に戻り、さらに基盤で反射して地表に戻ってきます。

このときに、戻ってきた波が次にやってきた波と重なり合うと、揺れがどんどん増幅します。 これが地盤の卓越周期になります。

均質な表層があるだけの単純な問題の場合には、表層内で1/4波長(H=Vs/4f、fはサイン波の振動数、Hは表層の厚さ)になるときが一つ目の卓越周期となります。

すなわち、卓越周期はT= 4H/Vs(Tは卓越周期、Vsは表層地盤のS波速度)となります。

このアナロジーで2次以降の卓越周期は、t=4H/(2n+1)Vs(n=1,2,3・・・)となります。


たとえば、表層のVsが200m/s、厚さが20mの場合には、卓越周期は0.4秒、Vsが1000m/s、厚さが1000mの場合には4秒となります。

前者は工学的基盤以浅の卓越周期に、後者は地震基盤以浅の卓越周期に相当します。

一般に建物の固有周期はT=0.1n(nは建物階数)程度と考えられますので、一般の建物では工学的基盤以浅の表層で決まる周期が、超高層建物では地震基盤以浅の厚い堆積層で決まる周期が大事になることが分かります。


つぎに知っておく必要があるのは、耐震設計で考える地震の揺れはなぜ水平方向の揺れが主なのかです。

震源から発せられる揺れにはP波とS波がありますが、より大きなエネルギーを運んでくるのはS波です。

震源から発せられたS波は水平方向に基盤のS波速度で伝わります。

S波速度Vs1の堅い地層から、S波速度Vs2の軟らかい地層にS波が、入射角度θ1で入射したとします。

このとき堅い層と軟らかい層とで水平方向に伝わる波の速度が等しくないと二つの地層が剥がれてしまいますから、Vs1/sinθ1=Vs2/sinθ2という関係を導き出すことができます。

これをスネルの法則と呼びます。


一般に地表に近いほどS波速度は小さくなりますから、Vs1>Vs2となり、その結果、θ1>θ2となります。

即ち、堅い地層では斜め方向に波が進んでいたとしても、地表に近くなると波の進む方向は鉛直方向に曲がることになります。

S波の動きは進行方向に対して直角方向の動きになりますので、結果として軟弱な地盤の地表では、S波の揺れは主として水平方向になります。

たとえば最表層のS波速度と地震基盤のS波速度との速度比が20あった場合には、地表への入射角度はarcsin0.05=2.9度となり、ほぼ鉛直下方からの入力になります。


水平の揺れを重視するもう一つの理由は私たちが作っている建物の特徴にあります。

建物は、常時、自分の重さや建物の中の積載物を支える必要があるので、上下方向の力に対しては十分な安全率を持って設計をします。

これに対して、常時働く水平力は想定しません。

このため一般に私たちが作る建物は上下の力に比べて水平の力の方が苦手ということになります。

このため、一般建築物の耐震設計では、主として水平の揺れについて安全性を確認することになります。

大規模堆積平野の長周期長時間の揺れ

さて、次に最近話題の長周期地震動の話をしておきましょう。

地震の時に伝わる波には、S波やP波という実体波に加えて、地盤表面を主に伝わる表面波という波があります。

実体波の伝わる速度は弾性体の弾性定数と密度で定まり振動数によらず一定の速度となりますが、表面波は振動数によって波の速度が変化する分散性という性質を持っています。

このため、様々な振動数成分を含むパルス状の波が発せられたとき、実体波はパルスの形を保って伝播しますが、表面波の場合にはパルスが崩れて継続時間の長い波になります。


また、地震波は、波が幾何学的に拡散するために距離とともに振幅が減衰しますが、この距離減衰は実体波と表面波とでは異なります。

小さな地震を考えて、震源が点状だったとしましょう。

実体波は同心球状に四方八方に伝わりますが、表面波は地表面に沿って伝わりますから円筒面状に広がります。

震源で発せられたエネルギーが保存されるとすると、実体波の場合には同心球の表面積と変位振幅の自乗を乗じた値が一定となるのに対し、表面波の場合には同心円筒の表面積と変位振幅の自乗を乗じたものが保存されます。

前者の表面積は震源からの距離の自乗に比例し、後者の表面積は震源からの距離に比例しますので、結果として、震源からの距離(r)による振幅の減少(距離減衰)は、実体波の場合は1/r、表面波の場合は1/√rとなります。

一般に震源から発せられた地震波のうち短周期の短波長の波は地盤材料の減衰作用によって早く減衰します。

この結果、震源から離れた場所では、長周期の表面波が残りやすくなります。

地震規模が大きいほど震源から発せられる長周期の波が増えてきますから、大きな地震のときには震源から離れた場所では長周期の揺れが卓越することになります。


さらにもう一点補足をしておきましょう。

関東平野、大阪平野、濃尾平野のような大規模な堆積平野は、周辺を基盤岩が路頭した山で囲われた盆地状の構造をしています。

これは、お椀の中の水のようなものです。

こういった構造をしていると、お椀に相当する堅い基盤から地震波が入射すると、お椀の中で地震波が何度も反射して、お椀から外に地震波が逃げにくくなり、長い時間揺れが続くようになります。

堆積層の厚さが千メートルを超えるような大規模な平野では、周期が数秒以上のやや長周期の揺れを増幅させる効果も持っています。

このため、大規模堆積平野では、長周期の揺れが強く増幅され、かつ長時間揺れが続くという特長を持つことになります。

我が国の三大都市圏は関東平野・大阪平野・濃尾平野とうい大規模堆積平野に立地し、ここには長周期で揺れやすい超高層ビルや煙突、長大橋、タンク群が集中しています。

これが、東海・東南海・南海地震のような巨大地震で、震源から離れた首都圏・大阪圏・名古屋圏で長周期地震動が心配されている所以です。

建物の揺れ

さて、建物も揺れやすい周期「固有周期」を持っています。

建物の話は皆さんよくご存じですから、簡単に説明をしておきます。

建物を単純に質量mの質点とばね定数kのばねからなる1質点1自由度系にモデル化できたとします。

このときの建物の固有周期はT=1/2π√(m/k)となります。

このことから、重量が重く、剛性が小さいほど建物の周期が長くなるということが分かります。

一般に、建物の周期は建物高さに比例すると考えられています。

その理由は次のように説明ができます。 同一の平面積のせん断変形をする建物を想定して、建物高さが変化した場合を考えます。

建物の重量は建物の高さに比例するのに対して、建物の剛性は建物高さに逆比例します。

したがって、建物周期は建物高さに比例することになります。


一般の方に説明するときには、長方形の形をした下敷きとダブルクリップを用意するとよいでしょう。

あるいは、団扇や簡単な振り子を使っても良いかもしれません。

下敷きを縦に長くして持ってもらって、扇いでもらいます。

私たちは直感的に下敷きの固有周期を感知してその周期で扇いでいます。

そこで、色々な周期で扇いでもらってください。

小刻みに揺すりすぎても、ゆっくりと揺すってもうまく扇げません。

ある周期のときだけに効率よく扇ぐことができることが分かります。

次に、下敷きを横に長くして持ってもらって扇いでもらいます。

この場合には小刻みに扇ぐ必要があります。

私たちはゆったりした気分のときには腕から全体を使って長周期で扇ぎ、イライラしているときは下敷きを短く持って小刻みに揺すります。

このようにすれば、下敷きの長さによって周期が変化することを実感してもらえると思います。

さらに、下敷きの先にダブルクリップなどの錘をたくさんつけてみます。

重くなると周期が長くなり、下敷きに作用する力が大きくなることも分かってくれるでしょう。

このようにして共振現象の説明をした上で、建物高さと周期の関係、地盤の卓越周期と建物の固有周期が近接した場合の共振の怖さなどを伝えられるとよいでしょう。

建物と地盤との相互作用

建物と地盤との動的相互作用についても触れておきましょう。

下敷きの先におもり(ダブルクリップ)をつけて、下敷きをしっかりと強く握った場合と、ふわぁっと軟らかく握った場合とで、下敷きの揺れを比較します。

しっかりと強く握って、下敷きの上を引って放してみると、少しの時間揺れが続きます。

これに対して軟らかく持つと揺れはすぐに収まります。

これは自由振動実験をしたことに相当し、手の握り方によって堅い地盤と軟弱な地盤を再現しています。

ふわぁっと握ったときには下敷きの堅さに比べて手の堅さが相対的に軟らかくなるため、手が良く変形します。

この結果、下敷きから手へ、さらに手から体へと振動エネルギーが伝わって、下敷きの揺れのエネルギーが逸散します。

これが地下逸散減衰です。さらに、注意深く見ると、揺れの周期が少し長くなっていることも分かります。


次に、下敷きの固有周期に合わせて共振させるように揺すってみてください。

しっかり握ったときにはゆれの振幅が大きくなりやすく、ふわぁっと握ったときには揺れがあまり大きく育ちません。

これは地動入力に対する強制振動試験をしたことに相当しています。

このようにすれば、分かりにくい動的相互作用現象も、体感的に納得できるようになります。


さて、次回は、より建物に近づいて、免震と制震の極意である「周期と減衰が揺れを司る」について解説をしてみたいと思います。

2009年2月