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ホーム   コンピュータ・建築・人間生活~その夜明けから黄昏まで/和泉正哲    第7回:AIの出現と、人類とコンピュータの黄昏
  • 第1回 : デジタルコンピュータの夜明け前から正午迄
  • 第2回:ソフトウェア
  • 第3回:数値解析と図化の進化
  • 第4回:コンピュータの進化と構造計算プログラムの登場
  • 第5回:一貫構造計算プログラムと構造設計者の職能
  • 第6回:小型コンピュータとインターネットの時代
  • 第7回:AIの出現と人類とコンピュータの黄昏
  • 第8回:建築構造設計の未来像
和泉 正哲

(いずみ まさのり
/ Masanori Izumi)

 

< 略 歴 >

1953年|東大工学部建築学科卒業、同学科修士課程進学

1958年|東京大学数物系研究科博士課程修了(工学博士)建設省建築研究所研究員

1972年|東北大学教授(工学部建築学科構造力学講座)

1994年|東北大学名誉教授 東北芸術工科大学教授

1999年|東北芸術工科大学名誉教授 清水建設顧問

2006年|清水建設技術研究所顧問

2008年|大崎研究室顧問、現在に到る。

その他:タイAIT、チリカトリカ大学、米カルポリ大Visit. Prof.、マケドニヤスコピエ大学名誉教授、上海同済大学工程力学研究所名誉所長、運輸省通訳ガイド(英語)、日本建築学会賞、同大賞、科学技術庁長官賞 受賞、論文、著書多数

第7回:AIの出現と人類とコンピュータの黄昏

9.1 人間とAI(人口知能)

日本人は他国人より地震の脅威を意識し、その建物は世界の中で耐震性能が高い。それでも、震災後は誰も「地震国日本の建物はもっと安全に造るべき」と思う。全ての建物0の耐震性能を更に上げるにはコストが掛かるが、そのコスト相当のお金を他(例えば医療費)に使った方が人命を多く救えるならそちらに使った方が良い。つまり、人命救助に対しても社会は投資効果を考えてバランスを取り、建物だけを充分安全に造る事はしない。法規類もこの線に沿って作られており、法規ギリギリの設計や欠陥建築は地震時に充分安全とは言えない。そのため、特に壊れては困る重要なあるいは危険な建物には重要度係数を適用するし、安全性が高過ぎてもこれを規制するような法規はない(但し、公的資金が投入された場合、会計検査院が介入し税金の無駄使いと弾劾する事はある)。さらに法規類も変化し、旧法では合法の建物が新法には合格しない所謂既存不適格建築も多く存在する事は既に述べた。

9.2 安全性を示す指標

世界では何処の国に住むのが安全か?と言う問いに対し、その回答の根拠になる簡便な指標の一つがその国民の平均寿命である。地震強風大雨大雪激しい温度差等自然災害多発国ながら日本人の平均寿命が世界で1、2を争う程長いことから、日本は世界でも安全な国と言える。人間の寿命を百歳と考えれば、それから平均寿命を引いた残りに%を付けた物は危険度と呼んでも良いと思う。日本人の平均寿命は、第二次世界大戦前は50歳位であり危険度は50%、今は戦争にも巻き込まれず医学も進み20%以下で日本は昔に比べ非常に安全になったと言える。「目指せ!危険度0%」と言いたいが日本では青年中年人の自殺率が高く、日本が決して住み良い国とは言えない事を示している(【図28】):世界でも史上でも最大の借金国、エネルギーと食料の自給率や公的教育投資率は先進国中最低である(【図30】)。

【図28】日本の現状は厳しい。

順位 名称 単位:歳 自殺率
順位
単位1人
/10万人
GDP/人
順位
単位:
$/人
1 香港 84.227 (21) (18.6) 16 46.1
2 日本 83.985 18 19.7 25 38.4
4 スイス 82.898 35 14.3 2 80.6
5 スペイン 82.832 91 8.5 31 28.4
6 シンガポール 82.795 74 9.9 10 57.7
8 イタリア 82.544 101 7.9 27 32.0
9 ノルウェー 82.510 64 10.9 4 74.9
10 オーストラリア 82.500 55 11.8 11 55.7
12 イスラエル 82.407 141 5.5 22 40.3
13 カナダ 82.301 49 12.3 18 45.1
14 ルクセンブルク 82.293 61 11.1 1 105.8
15 フランス 82.273 26 16.9 23 39.9
16 スウェーデン 82.205 33 15.4 12 53.2
17 韓国 82.024 4 28.3 29 29.9
20 ニュージーランド 81.612 47 12.6 21 40.3
24 ギリシャ 81.037 153 4.3 42 18.6
26 イギリス 80.956 91 8.5 24 39.7
30 ドイツ 80.641 45 13.4 19 44.5
36 アメリカ 78.690 39 14.3 8 59.5
58 中国 76.252 72 10.0 74 8.6
74 スリランカ 75.284 1 35.3 114 4.1
109 ロシア 71.593 16 20.1 65 10.6
131 インド 68.560 32 15.7 142 2.0

【図28(a)】世界の平均寿命
(2016年 出典:World Bank世界銀行、世界経済のネタ帳からアレンジ)を
ベースにした平均寿命と自殺率(2015年)及び1人当たりGDP(国内総生産2017年)の比較。

統計年次に違いがあり、また、此れ等と異なった数値を示す資料も存在するが、それでも、国状が漠然とは理解出来る。しかし、例えば、自殺率世界一で平均寿命も低く収入も少ないスリランカでの生活は非常に苦しいと思われるが、此れは最近迄の内戦の影響もある為で改善されつつあり、人々は意外と明るい。また、例えばスイスは、平均寿命も長く収入は世界2位、風光明媚の永久平和国で理想的に見えるが自殺率は世界の平均値の約10人よりも多く、物価は高く人々の生活が非常に楽と言う訳でもない。「幸福な生活」は次回(最終回)に述べたい。

【図28(b)】資源エネルギー庁(白書 2018 出典:IEA主要国の1次エネルギー自給率比較(2015))

日本は、1人当たりGDP世界1位のルクセンブルグを上回る(人口は日本が約215倍)と言っても自給率10%以下は極端に低い。嘗て日米開戦の主要原因の一つが米国に拠るエネルギー封鎖であった事や、現在の石油の主要輸入源の中東からの海路の長さや不安定さを考えると、早急に改善しなければならない問題である。さらに食料自給率も40%以下と低く。未来の為の投資(教育予算GDP比)も先進国中最低である。

【図29】日本政府の借金額は世界史上最大。

『ボクは生まれた時から900万円の借金持ち。大きくなったら家族以外に、借金して楽な生活をしていた老人1人(正確には3/4人)迄も扶養しなければならないなんて!ボクは生まれて来なければ良かった!』等と言われないよう、現在の成人(含;老人)は努力しよう。

9.2 自殺と人生の目的

死を避けようとする本能を持たぬ動物は既に絶滅している。人間が自殺するのは、この本能を上回る苦悩を味わう時であるが、稀に生きる目的が掴めず自殺する人もいる。私は人間を含め生物に生存目的など存在しないと考えているが、動物の死を避ける本能とそれを確実にする為の機能の保持の御蔭で生きている。ただ、生まれて来てこの世に存在した限りは、皆と共に少しでも住み易い環境を作りたいと思い、私はそれが生きる目的となっている。しかし、残念ながら、世界は、開発途上国の人口の急増を含め、自然環境を破壊し資源を蚕食して人類破滅の途をひた走りに進んでいる(【図30、31】)。

【図30】日本の若者の自殺率の多さは異常であり、
社会を良くして、若者が明るい未来を期待出来るように変えたい。

【図30(a)】厚生労働省2009年統計;死因原因別年齢階級死亡割合に因る。

自殺者の割合が20歳前後では、死亡の最大要因となっている。比率は歳を取るに従い減少するが、死亡者の数が加齢と共に増加するので、(時代に伴う変化はあるが)各世代(10代~70代の各10年)で毎年概略3~4千人、総数で2~3万人もの自殺者がいる。

【図30(b)】OECD(経済協力機構)による同機構所属の国に見られる自殺比率の変化(1990~2011)。

平均値はピンク色で示され暫減傾向にある。エストニア、ハンガリ-等旧東欧諸国で急減しているが韓国は増加傾向にあり、日本はバブル崩壊で急増しその侭高止まりにある事がわかる。(プラザ合意1985を無条件で飲んだ日本の政治外交の失敗に因る経済不況の影響と考えられる。)

【図30(c)】

不安や不満を除き、高齢者が増加総人口減少のこの社会で貴重な若・成・中年層の自殺者を減らす。その為に、政治家、官僚を含め全ての人々が不正や無駄をなくし、自然と人を愛して協調し、不安条件も減らして未来像の描ける社会を造る努力をすれば、自殺者も減ると思う。

【図31】日本の未来とは異なった意味で、世界の未来も非常事態にある。

【図31(a)】1960年代にローマクラブで作成された世界の未来予想

人口が指数的に急増し天然資源は枯渇に向かい汚染は増大し生活の質が減少する傾向を示した。間もなくピークを迎える筈の世界人口の実状は予想を遥かに上回り、この侭では人類が急に滅亡する状況となっている。

【図31(b)】

国連の推計によると世界人口急増は止まらず2055年頃100億人(水、食料等からの人類の限界数)を超えると見られる。現在は中国が14億人近くであるが将来はインドが此れを抜き16億人を超えると言われている。人類を滅亡から救う為にはアフリカ、アジアの開発途上国の人口急増を止める必要が在るが、女性の教育等の必要対策は殆ど実施されず、ただ破局を座して待っている。(出典:UN経済社会局)

9.3 人間の知恵

個体で比較した場合、人類が他の動物より格段に優れている訳ではない。例えばボノボ(=ピグニーチンパンジー)のDNAは 約98%人間と同じと言われている。体力等も入れた総合能力では多分両者に優劣は付け難いと思う。しかし、集団としての種の現況は大違いである。人類は個体の僅かの相違、例えば言語能力を生かし、力でなく「約束事」つまりルールが支配する集団を作ったおかげで大きな集団形成が可能となり、安全性を増し同時に集団内の経験や知恵を相互及び世代を越えて共有し得たその蓄積の結果が文明となって現在にある。約束事の基本は英語で言う『Golden Rule = Do to others as you would be done by 即ち己所不欲勿施於人 = 己の欲せざる所を人に施す勿れ』である。例えば自分が殺されたくないので他人を殺さない。殺人禁止のルールはグループ内での生活の安全性を増した。この人類の知恵も全地球を一つのグループつまり世界国家の形成には到らず、各国が自国有利を目標に闘争殺戮を続けている。

9.4 人間の知恵をこえる?AIの出現

人間は感情に支配され時に理性を失う。このため、感情を持たないコンピュータにデータを渡し判断させたら良いのではないかと、当然考えられる。先ず、データの蓄積だが、私達は半世紀前からVRI(Virtual Research Institute)と言う架空の研究所を多数の主要機関のコンピュータ内に保有して貰い、そこで蓄積されたデータを共用する考えを提案し賛成は得たが日本では実らず、米国の大学で採用され発展した。今や世界的にデータは整理され、万人が共有するものとなりつつあるが、その信憑性に疑問のある物もある。次の「判断の為のプログラムの作成」は四半世紀前、私が職を民間に変えてすぐ「数理計画」を開始したがTPO(Time, Place & Occasion:和製英語)が噛み合わずバブル崩壊の不況時代や1995年の地震処理と重なり、途中のミニプログラムでの利用結果を発表して終わった(【図32、33】)。

【図32】数理計画(MP)の構造

『問題』は現実が「望ましい状態」と乖離している時に生じる。其の問題の構造を関連する周囲環境を境界に持つ構造にモデル化し設定した条件を満足する解を複数得る。解集合に対し意志決定の過程で順位付けし、モデル上で実行しその結果を見て、問題がなければ、実施する。モデル実行の結果が望ましくない場合は、条件を慙変し、この計算サイクルを繰り返す(実際に実行して失敗し途方に暮れる前に、コンピュータ内で仮想的に実行して不具合部分が直せる点が素晴らしい)。

【図33】数理計画(AI利用のプログラム)の勧め

9.5 コンピュータの第5世代

1990年以降コンピュータは第5世代に入りノイマン型を超え、ハードでは並列処理ができる構成となり、ソフトでも新たな言語が開発された。生物の神経モデルの応用、例えばニューロン回路等も研究されている。

9.6 AIの時代

「第2回」でコンピュータはプログラムで逐一手順を教えないと何もできないと述べた。同時に「第3回」で人間は何も考えなくてもコンピュータが答えを出してくれるモンテカルロ法に触れた。

その中間があってもよい。ある程度人間がお膳立てをし、その後はコンピュータの演算速度の速さと記憶力の確かさ大きさを活用させて膨大な計算をさせ、比較させてより良い物を選ばせれば、良い判断に辿り着く。例えば、猫と犬の違いを人間は容易に判断するが、これの判断をコンピュータにさせるプログラムを作成するのは容易でない。そこで、選別手法のヒントだけを与え、後は猫と犬についての写真やデータを多量計算機に投入すれば、計算機は幾つかの判断段階を経て、以後猫と犬の区別が可能になる。この段階的判断法等をディープラーニング(deep learning)と呼び、コンピュータの自習機能としてAIの一つの基になっている。

9.7 人類とコンピュータの黄昏

【図8(第2回)】でlogistic curveに就いて述べた。人類は今どの辺りに居るのだろうか?【図30】の世界人口の指数的にも見える変化は生物としては正に絶滅寸前型であり、人類は黄昏期にいる。一般に個体数の急増は食料等の不足を招き種内で激しい抗争の後、その種は絶滅にひんする。人間の場合、食料増産で危機を後延ばしにして来たが、例えば水不足耕地不足の近未来の到来は否めない。海水利用、多層農業及び食料合成等を考えるなら、エネルギーの確保が先決問題となる。太陽と核融合のエネルギーで生き伸びを計り、小数は地球を脱出して他の星で生き続ける現代の夢物語が人類滅亡前に実現できるかは疑問である。コンピュータは、ソフトは今最盛の昼間だが、ハードは午後を回り黄昏に向かいつつあると思われる。目標は腕時計程度の大きさ重さのハードに向かい呟けば【図12(第2回)】のようにオーナーのしたい事を判断し、適切なロボットにその意志を伝えて実行する事であろう。その様な時代になった時、問題は人間がどう生きるかであろう。生きるために働く生活が、ただ命令だけをしていれば生きて行ける生活に変われば、昔の王侯貴族である。王侯貴族は小数で多数の部下を従えてこそ価値があるが、皆が王侯貴族ではただ退屈の人生であろう。「小人閑居して不善を為す」閑な人間は碌な事をしない。ただ、時間があるから学問芸術の発展はあるかもしれないが、AIが先回りして人間の考える事は見通してしまい、自然相手の研究でさえも、要点をコンピュータに指図されてするのでは、面白くない。ゲームはAIに、スポーツはロボットに敵わない、セックスすら好みの人工美男美女が格安に揃っているとなれば、人間やる気を失い、生きる意味を見失う。その様な状態にどう生きるか、はこれから真面目に切り開く新しい分野であろう。

9.8 終わりに

幸運にも私はコンピュータの誕生から成長の時代に生きた。機械語の赤子の時代を知る私は、今はコンピュータに取り残され、孫達が勝手に操作し動画を見て歓声をあげ、見ず知らずの他人と打ち解けて話し合うのを唖然として見ている。触っても見ていない品物を買いまくり要らなくなったらさっさと処分する、物に愛着を持った我等の時代はすでになく、我等にはコンピュータが犯罪の温床にも見えて、うっかりボタンも押せなくなった。建築構造家として安全な建物を目指した人生であったが、誰かが、いたずらや犯罪に無関係な安全なコンピュータを作ってくれる事を願う老人になってしまった。