ホーム   大工塾から中大規模木造建物まで/山辺豊彦    第5回:地域材活用と中大規模木造建物(3)韮崎市すずらん保育園
  • 第1回:大工塾の活動からはじめて
  • 第2回:木材の特性と木構造の基礎知識を知る
  • 第3回:地域材活用と中大規模木造建物(1) つくば市立東小学校
  • 第4回:地域材活用と中大規模木造建物(2) 熊本県和水町立三加和小中学校
  • 第5回:地域材活用と中大規模木造建物(3) 韮崎市すずらん保育園
  • 第6回:中大規模木造の耐震補強事例 臨江閣別館の耐震改修
山辺 豊彦

(やまべ とよひこ
/ Toyohiko Yamabe)

 

< 略 歴 >

1946  石川県生まれ
1969  法政大学工学部建設工学科建築専攻 卒業、青木繁研究室 入所
1978  山辺構造設計事務所 設立
1982  (有)山辺構造設計事務所 設立
1982 
 |
1997
法政大学工学部建築学科 非常勤講師
2006 
 |
2008
千葉大学工学部建築学科 非常勤講師

一社)日本建築構造技術者協会 関東甲信越支部 東京サテライト 顧問

一社)住宅医協会 代表理事

日本構造家倶楽部 理事

 

< 主 な 作 品 >

我孫子市立鳥の博物館、芦北青少年の家、金沢区総合庁舎(公会堂棟、事務所棟)、西脇市多目的体育館、碧南市多目的体育館、都立府中朝日養護学校、棚倉町立社川小学校、つくば市立東小学校、田園調布学園中等部・高等部、カリタス女子中学高等学校、七沢希望の丘初等学校、高島市立朽木東小学校・朽木中学校体育館、熊本県和水町立三加和小・中学校木造校舎・屋内運動場、韮崎市すずらん保育園、日本点字図書館、むつ市立図書館、JR赤湯駅舎、JR大曲駅舎、JRひたち野うしく駅舎、JR新庄駅舎、正田醤油本社屋
文化財保存修理:建長寺法堂、護国寺月光殿、豊平館

 

< 受 賞 歴 >

1997  第7回RM賞 大森東1丁目団地
1999  JSCA賞佳作賞 木材を活用した学校施設の構造設計(つくば市立東小学校、棚倉町立社川小学校)
1999  BCS賞 棚倉町立社川小学校
2009  日本構造デザイン賞(松井源吾特別賞)地域材活用による一連の構造設計と実験活動
2015  耐震改修優秀建築賞:愛農学園農業高等学校本館
2016  第19回木材活用コンクール最優秀賞 農林水産大臣賞:和水町立三加和小中学校

 

< 著 書 >

ヤマベの木構造 増補改訂版
/エクスナレッジ 2013.5

渡り腮(あご)構法の
住宅のつくり方 —
木の構造システムと設計方法
/建築技術 2008.12 共著

世界で一番やさしい木構造
増補改訂カラー版
/エクスナレッジ 2013.2

世界で一番くわしい木構造
/エクスナレッジ 2011.8

ヤマベの木構造
現場必携ハンドブック
/エクスナレッジ 2013.9

絵解き・住まいを守る耐震性入門
— 地震に強い木の家をつくる
/風土社 2008.10 監修

ゼロからはじめる 5
木構造
/エクスナレッジ 2010.9

ヤマベの木造耐震診断・改修
/エクスナレッジ 今秋発売!!

 

< 編 集 協 力 等 >

「あたたかみとうるおいのある木の学校選集」文部省/文教施設協会 1998.5

「あたたかみとうるおいのある木の学校」文部科学省/文教施設協会 2004.8

「あたたかみとうるおいのある木の学校 早わかり木の学校」文部科学省/文教施設協会 2007.12

「こうやって作る木の学校~木材利用の進め方のポイント、工夫事例~」文部科学省・農林水産省 2010.5

「木質系混構造建築物の構造設計の手引き」(財)日本住宅・木材技術センター 2012.1

第5回:地域材活用と中大規模木造建物(3)韮崎市すずらん保育園

設計|建築:Vent計画設計室

|構造:山辺構造設計事務所

|設備:テーテンス事務所

施工:内藤ハウス・深澤工業再編保育園建築主体工事共同企業体

木材供給:峡南森林組合

敷地面積:7,068.40m²

建築面積:1,949.45m²

延床面積:1,559.97m²

階数:地上1階

構造:木造

【図1】配置平面図

【図2】断面図

保育園の建築にあたり、建築主である韮崎市は、市内に市有林を所有する地方公共団体であり、施設の木造化・内装木質化を積極的に行っている。本建物は当初より木造園舎建築を基本に据え、プロポーザルの実施方法から、林野庁の補助事業である「木造公共建築物等の整備にかかわる設計段階からの技術支援」を受けた。

設計方針

市の取組を受け、「わが子を初めて家族以外に預けるお母さんが、毎朝笑顔で子供を託すことのできる『木の保育園』をつくり上げること」を目標とし、下記の3点を設計方針とした。

1)第二のすまいとなる、ぬくもりのある「木の保育園」

2)地域の木で、園児たちの心の残る「木の保育園」

3)地域の特性を生かした「木の保育園」

【写真1】南西面全景

木材の確保と木架構

地域の材料を使った本建物の設計にあたり、高い壁となるのが使用材料の確保である。基本構想の段階から山へ足を運び、構造材(ヒノキ材)の確保の確認を行った。架構の考え方を、一般流通材120mm角を基本とすること、それを基に遊戯室のスパンを決めていくこととしてスタートし、重ね梁を使用することで、14.56mの無柱空間を実現させた。

県産材利用の補助金を利用する関係上、建設工期が単年となるため、材料は分離発注とし、韮崎市の施主支給材料として現場に納めることとなった。分離発注の場合、材料の品質管理と材料に対する責任関係の明確化が課題となる。設計当初より材料の全数検査を想定しており、全材料について目視検査と含水率検査を行い、割れや節の状況の確認をした上で、含水率20%以下の材料のみを使用した。併せて横架材については、目視・含水率検査と共にヤング係数の打撃音による検査を行い、ヤング係数90以上の材料のみを使用した。材料を供給する森林組合側において、すべての材料について検査を実施し、その報告を数値で受けた上で、うち1割を市が検査するという方法をとった。

【写真2】構造の品質管理(設計者・材料供給者)

【写真3】品質確認(「市」担当者・設計者・施工者)

架構計画

■管理棟・保育室棟の架構計画

保育室や管理棟内の食堂は、梁間方向スパン間7.28mに1.82m間隔でトラスを設け、無柱空間を構成している(【写真4】)。トラス形状は、屋根面の切妻形状に合わせたトラスと排煙及び採光のための越屋根形状に合わせたトラスの2種類の組み合わせで屋根面を構成している(【図3】)。トラス部材は、引張・圧縮部材を明確に分けて接合方法を決定した。特に下弦材等の引張部材は、接合による割裂きを生じさせないよう、引きボルト形式で部材同士を緊結させた。水平荷重に対する構造計画において、各方向とも45×90以上の筋かいを用いた耐力壁による在来軸組工法を採用している。一部の耐力壁では、120角材を接着剤にて束ねた重ね材による壁柱を用いて水平荷重を負担している。採用された壁柱は、RC基礎からの片持ち柱形式として水平荷重を処理できるように柱脚の耐力を決定した。

【写真4】保育室棟内観

【図3】保育室棟のトラス架構図

■遊戯室棟の架構計画

遊戯室は、梁間方向スパン14.5mのフレームを、1.82m間隔で9列配置し、14.5m×17.7mの広い空間を構成している(【写真5】)。採用した架構形式は断面寸法・部材配置形状・部材本数、組み立ての優先順位等のケーススタディを行い、構造上効率の良い形状を決定した。架構に用いる柱、登り梁、方杖状の斜材は、120角材を接着剤にて束ねた重ね材を使用している。各部材は2~3の複数の材で形成し、接合箇所については複数の材同士を互いに相欠きし、嵌合接合でフレームを構成している。嵌合接合については、複数の木栓と1本の座金付きボルトとの複合接合としており、フレームの変形に追随できるよう靱性を持った接合とした(【図4】)。

桁行方向の架構は、構造用合板による耐力壁により全水平力を負担している。 屋根面の水平力伝達は、十分な水平剛性を確保するとともに、屋根面の外周部水平梁には水平構面の縁応力として引張力が生じることから、継手などの水平梁接合部を引きボルトによる補強で部材同士を緊結させた。

【写真5】遊戯室棟内観

【図4】遊戯室フレーム架構図

■パーゴラの架構計画

建物の南西面側には、玄関ポーチへ連絡する施設利用者の雨避けのために、車寄せ用パーゴラを連続して設けている。構造上、大きく跳ね出した屋根面は片持梁で受けている。片持寸法が2.3mであり比較的大きい出のため、柱から方杖を出し片持梁の負担を軽減させた(【図5】)。なお、鉛直荷重時の軸力は、柱脚から直接RCの基礎へ伝達された。水平荷重の応力に対しては、柱脚の固定度を高めることが重要であるため、2本のボルトで柱とRC基礎を緊結し柱脚を回転拘束させた。

【写真6】パーゴラ

【図5】パーゴラ矩計図

本建物の設計・施工における大きな特徴は、大断面集成材や特殊な金物を使用した接合形式は採用せず、地域材から取れる正角材(4寸角)を使用することを原則に、管理棟・保育室棟やパーゴラは、作業効率を考慮してプレカット加工とし、遊戯室棟のフレーム架構の製作においては、地元の大工さんの手刻みにより加工されていることである。このように地域材を使用し、地元の設計者・建設会社や職人さんの手で造られた建物は、地元の利用者にとって愛着を持って長く活用されていくことを期待している。